御徒町で54年の歴史を誇った名店、寛八。
寛八の親方、山田博さんは16歳の頃より修業を積まれ、20軒近くの鮨店を渡り歩き、当時の人気店・銀座美よし鮨(1936年創業)で10年修行、1964年に御徒町に鮨處寛八を開き、2018年9月に御年85歳で暖簾を畳まれたと言う、昭和の鮨界の正に叩き上げ。
名うての職人さんが引退してしまうのは寂しい限りですが、技が弟子(人)によって伝承されるのも鮨の魅力の一つ。
今回、こちら鮓かね庄の親方・渡辺彰さんの握りを頂き、「鮨が継承される魅力」を再認識しました。
渡辺さんは前述の寛八で何と16年間も修業された後、2017年6月に浅草・観音裏にお店を開かれました。
界隈は個人的に浅草の中でも好きなエリアなので、軽やかな足取りでお店の暖簾をくぐりました。
お店に入ると昔ながらの風情が漂っており、渋い空間が好きな方であれば、きっと落ち着く筈。
もともとはフグの割烹だったそう。
旧・浅草象潟(きさかた)町にはフグのお店が多いですね。
石が埋められた床には打ち水がされており、心が洗われる。
流れるBGMはジャズ。
歴史を感じながら、古臭くなく、気取ってなく、非常に和む空間です。
「鮓 かね庄」の握りについて
そして、肝心の握りについては、端的に、秀逸。
お昼のおきまりは【上】1,900円、【特上】2,800円 平日3,900円で、おまかせは5,200円。
今日び目を疑う価格ですが(笑)、味わいは街場寿司ではなく真っ当かつ上質な江戸前鮨のそれ。
特にシャリの完成度が非常に高く、存在感を放ちつつ、あらゆるタネとの相性が良好です。
お酢は米酢(ミツカン白菊)のみを使用し、酸味も塩気も穏やか。
砂糖を使用しつつも甘みは非常に優しく嫌味がありません。
中でも特徴的なのが炊き加減。
老舗の系譜にあるお店としてはかなり硬めで現代に通用する硬さです。
米粒が立ち、輪郭を感じさせ、口の中ではらはらとほどけます。
粒がむちむちと良い反発を示すので、大変グラマラスなシャリだと感じました。
昨今、予約困難店で修業し、パトロンが多額の支援を行い上質な内装を仕立て、オープン直後に予約困難となるお店が多く、また価格帯も上の方で相場感を形成している嫌いがありますが、
全てが全て同じ方向性であると面白みに欠けるもの。
別にそのような職人さんやパトロンが悪いと言うわけではなく、あくまでも食べ手が伝統も重んじるべきだと感じる次第です。
現実的には、他のジャンルも含めて値上げに次ぐ値上げが起こる現象は、紛れもなく「求められている」からでしょう。
時代に。
しかし、皆が皆、ピン(一級品)の鮪や海胆を求める必要は無く、まして和食でトリュフやキャヴィアを求める姿勢は愚の骨頂…
意思のある食べ手は同じ仕入れ、同じ食材で満足するのではなく、「仕事」と「食材の取り合わせ」を吟味するべきでしょう。
その方が食べ手の味覚と食べ歩きの幅も広がるものです。
この度頂いたお酒
阿部勘・純米吟醸
お昼なので、一杯のみ頂きました。
「鮓 かね庄」のおきまりの内容
サラダ
胡麻は金胡麻を使用しており、香りが良い。
ガリ
甘みが付けられており、辛味と酸味は軽い。
昔ながらのガリであるが、甘みは舌に障らない。
鮪中トロ
むっちりした繊維はとろとろと脂を滲ませ、旨い。
鉄の爽やかな香りが最後にふんわりと広がる。
尚、勿論と言う感じで山葵も良く、香りと辛みが抜ける。
この価格帯でも「混ぜ」で無い点は親方の矜持であろう。
星鰈
身は噛めば期待に応えて旨味が高まる。
昆布〆だろうか。
非常に上品な〆加減であった。
鮪赤身
これまた爽やかな香りの鮪。
中トロで始まり、白身、赤身とは面白い流れ!
印象が強まるとともに、一気に食欲を刺激される。
赤貝
シャリが美味しいため支え合う。
小鰭
かなり旨味が凝縮された小鰭で、〆加減は強過ぎず弱過ぎず。
身質はしっとり感とみっちり感を併せ持ち、決して「なまくら」ではない。
香りがふんわりと漂い、高まる。
いくら軍艦
ねっちりと漬け込まれているが、醤油の塩気は非常に上品。
車海老
茹で上げで、甘くしっとり。
穴子
ほろほろした身質が印象的で、香りも良い。
食感に加えて、茹で置きながらに香りや甘みがある点が独特。
冬の穴子は対馬の穴子が持つ甘みと脂の強さにおいて喜ぶ方が増えているが、こう言った仕事による穴子の提示の仕方は琴線に触れる。
自称「食通」の方は油脂好きが多いので仕方無いのかもしれないが。
旬に江戸前もしくは瀬戸内のものを頂いてみたいと感じた。
玉子
これは素晴らしい完成度。
芋は不使用ながらにしゅわしゅわ、ふんわりした食感。
この食感の為に鞍掛けにしてもシャリとの一体感がある。
なんと砂糖ではなく和三盆糖を使用されているそう。
「鞍掛け」と言う古典的意匠に、現代的な味わいを加えた印象に残る一貫である。
椀
アオサの味噌汁
赤貝のひもの巻物
シャクシャクな食感と旨味が嬉しい巻物。
鯖 追加
しっとりした身からトゥルンと溶け、脂が乗っている。
〆て2日強くらいか?
柚子皮と金胡麻をまぶした沢庵。
大きなうずら豆はほっくりと柔らかく、香り高い。
「鮓 かね庄」のお店の情報と予約方法
WEB予約は一休経由で可能です。
店名:鮓 かね庄(すし かねしょう)
シャリの特徴:塩分と酸味は穏やかで、嫌味にならぬよう砂糖を使用。むっちりと美味しいシャリ。
予算の目安:お昼のおきまり【上】1,900円、【特上】2,800円 平日3,900円、おまかせ5,200円
TEL:03-3871-6081
住所:東京都台東区浅草3-33-9
最寄駅:浅草駅から1,000m
営業時間:火~土11:30〜14:00、17:00~23:00 日・祝11:30〜14:00、17:00~22:00
定休日:月曜、第1・第3日曜
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