すしログ日本料理編 No. 135 滿(mitsu)@松本市(長野県)

こちらはオープンから1年ほど経った2016年の7月頃、友人から話を聞いて狙っていた蕎麦懐石のお店です。

中々訪問の機会を作れませんでしたが、今回、山菜狙いで訪問した次第です。

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ご主人は東京立川の無庵で蕎麦の腕を磨き、滋賀県・余呉の徳山鮓で料理を学ばれたと言う方。

お店は民家を改修した個性的でスタイリッシュな一軒家となります。

お店の外には控えめに看板(上記写真)が置かれており、暖簾には店名がありません。

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知らなければ入らないであろう雰囲気で、店内は入口を入るとすぐに階段があって面白いレイアウト。

天井高は高く、窓の外には中庭が見え、静謐で寛げる内観です。

今回は一番上の8,000円のコース(3日前に要予約)を頂きました。

結論から申し上げると、調理の細部や食材の取り合わせに妙を感じさせる料理でした。

即ち、【自家製唐墨の蕎麦】におけるオイルの使用や浅葱の使用量に目を瞠り、コシアブラにミル貝を合わせるセンスには好印象を抱きました。

このように書くと通好みに思われるかもしれませんが、単純に美味しく、長野の人であっても新たな食材との出会いがあるのではないかと感じました。

そして、山菜の時期である事をさて置いても、長野の季節の味を強く楽しませてくれる内容でしたので、他の時期に伺ってもきっと満足度が高いだろうと感じました。

こちらは写真撮影不可なので、以下、文章のみでご紹介致します。

 

八寸

コゴミ、土筆、ウドの白和え、鴨肉のロースト、ニシンを炊いたもの、信濃雪鱒(シナノユキマス)の蕎麦寿司、出汁巻き玉子、筍の木ノ芽和え、鞍掛豆の浸し豆、花豆。

中でも秀逸だったのは【信濃雪鱒の蕎麦寿司】。

鱒はみっちり、しっとりと〆て、蕎麦には酢をしっかりと利かせている。

それをおぼろ昆布で巻いており、見た目からして美味しそう。

これは蕎麦寿司として高い完成度であり、地物の信濃雪鱒を用いている点も嬉しい。

白和えには酢を爽やかに利かせている点が素晴らしく、胡麻と合わさり味わい深い。

土筆は極めて若いものをフレッシュな状態で使用しているためか、非常にシャキシャキ。

灰汁の苦みは皆無。

鴨肉のローストはしっとりと仕上げ、柔らかな身から力強い香りを楽しませてくれる。

甘く炊いたニシンには実山椒の醤油漬けを乗せている。

出汁巻き玉子には筍の姫皮を混ぜ、

筍の木ノ芽和えには酒粕で調味し、花山椒をまぶしている。

鞍掛豆の浸し豆にはアオサと山葵を使用。

 

自家製唐墨の蕎麦

これは非常に印象深かった。

濃厚な味わいの唐墨と蕎麦の一体感が高く、

それはひとえにオイル(太白胡麻油?)を使用し、効果的に混ぜているためか。

さらに浅葱を用い、これが丁度良い量なので穏やかにアクセントとなる。

蕎麦はしっかり食感だが極細で繊細なので一体感が要だ。

世間一般的に唐墨の蕎麦はガッカリする事が多い。

あたかもパスタにパルミジャーノ・レッジャーノをおろすかの如く、大量にまぶしただけで悦に浸る作り手と食べ手が多いものの、料理の妙とは即ち一体感。

特に強い食材を用いた場合、一体感無くしては下世話に堕してしまう。

唐墨蕎麦を頂き、ご主人の料理のセンス、勘所の良さを実感した。

 

小鹿の背ロースと筍姫皮の炭火焼き

つけ焼きにしており、タレが美味しい。

筍は甘くほの苦い。

鹿は非常に柔らかい。

骨周りなので、味わいも強い。

あしらいはセロリの葉と浅葱。

 

ミル貝とコシアブラの和えもの

コシアブラはさっと茹でているだけで、生に近い。

よって、香りが強く、苦味も料理に用いている。

ミル貝の甘みとのコントラストが印象深い。

味付けは胡麻油と塩。

 

猪と花山椒の柳川仕立て鍋

鍋は伊賀・土楽窯の魚手黒鍋。

猪以外にコシアブラと笹掻きゴボウを卵でとじている。

非常に柔らかく、クセは皆無で旨味の強い猪、

コシアブラの風味、ゴボウの野趣をふっわふわな卵が包み込み、これまた素晴らしい一体感。

出汁は猪と山菜に合うよう、強めに引いている。

確かに、この出汁には徳山鮓出身の片鱗を感じさせる。

花山椒は東京で2017年から流行りすぎており(2018年はキロ10万突破らしい)、心から辟易する次第であるが、産地で然るべき調理であれば実に美味しい。

「季節を愛でるため」の「薬味」である事を忘れ、「具材」として使用量を競い合い、求め合う風潮は甚だ下品で本末転倒である。

付け合わせの唐辛子の麹漬けも美味しかった。

 

蕗の薹と桜海老のかき揚げ

凄く軽やかなかき揚げ!

サックサクで、ふんわり。

海老の甘みと香ばしさ、蕗の薹の芳醇な香りが終始幸福感を与えてくれる。

 

蕎麦

極細でもぎゅもぎゅと力強く、香りと甘みを楽しめる。

ツユは出汁がしっかりしており、醤油は強過ぎず、甘みを付けている点が特徴。

ある意味、ツユの甘みは好みを分ける要素かもしれない。

個人的には嫌味ではないと感じた。

蕎麦湯は蕎麦粉を混ぜたトロトロタイプ。

一つ気になったのは、蕎麦はザルに盛った方が良いのではないかと言う点。

水が蕎麦の味わいを少々阻害していた印象である。

 

水菓子

蕎麦がきを用いたイチゴ大福。

これは美味しい創作和菓子!

くにゅくにゅと柔らかい蕎麦がきに、イチゴの酸味と少し甘めの餡がナイスバランス。

 

長野の食材を繊細な調理で頂ける名店です。

違う季節に再訪したいところです。

 

店名:滿(みつ)

食べるべき逸品:季節の長野食材を用いた、上品かつ美しい料理。

予算の目安:コース4,000円、6,000円/8,000円(3日前までの予約制)

最寄駅:松本駅から1,400m

TEL:0263-34-8103

住所:長野県松本市大手5-3-4

営業時間:11:30~14:00、17:30~

定休日:不定休

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