こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。
さて、今回ご紹介する「熟成鮨 万」さんは、他の何処のお店とも異なる「熟成特化型」の鮨店です。
僕は牛にしても魚にしてもブームとしての熟成が苦手なので、今まで特化型の鮨店は敬遠していました。
しかし、熟成が一つの仕事として完成されていて、ポテンシャルがあることは二子玉川の「すし喜邑(㐂邑)」さんで知っています。
そして、この度、常連さんからありがたいお声がけを頂いたので訪問しました。
結果的に、熟成特化型であるばかりか、あらゆる観点で独自性のあるお店で圧倒されました。
すしログ
賛否両論必至。
こちらは「熟成鮨」を超えて「万と言うジャンル」だと感じました!
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「熟成鮨 万(よろず)」の立地と雰囲気
味のご説明に入る前に、こちらは立地が如何にも港区的です(住所は渋谷区東ですが)。
なにせマンションの一室にあり、施錠されているので、インターフォンでお声がけして入ります。
お店はビルの3階にあり、カウンター席6席のみとプレミアム感があります。
ただ、ゴージャスな方向性ではなく、親方とお客全員が対峙する硬派な方向性の劇場型。
しかし、不思議なことに、お店に入ると既にお酢の香りが漂っています。
シャリ切りはまだなのに何故!?
この理由には驚きました。
なんと、親方の白山 洸さんは、炊飯時にお酢を加えてお米を炊いているのです。
シャリの話は後述しますが、これは類を見ない炊飯!
そして、独特の熟成香も漂っていて、お店の香りからして通常の鮨店とは異なります。
お米が炊きあがると、「初音鮨」の中治勝親方が始めた、お客の前でのシャリ切りから始まります。
刹那に強烈なお酢の香りに包まれます。
お酢の香りこそが「熟成鮨 万」さんを決定付けるアロマだと感じました。
「熟成鮨 万(よろず)」の白山洸親方の仕事と独創性
まず、鮨の生命線であるお米はバーミキュラの炊飯器で炊かれます。
超硬めのアルデンテ。
一般的な鮨の硬めの炊き加減よりも、20~25%ほど水が少ないように感じます。
完全にアルデンテですが、タネと合致すると気にならないので不思議です。
お米自体にこだわりがあり、長野県・東御の契約農家から籾で買い付ける、送風乾燥させたお米です。
農家さんの方で寝かせて、随時送ってもらっているそうです。
そして、お酢は飯尾醸造の赤酢プレミアム100%。
酸味がキレキレで、強い旨味があります。
ヨコ井の與兵衛100%よりもコクのパンチがあるシャリだと感じました。
駆使される仕事は圧倒的な個性を持っています。
独自のアプローチから繰り出される熟成。
僕は白山親方の共著である『津本式と熟成【目利き/熟成法/レシピ】』を読んでいましたが、それでも衝撃を覚えました。
一般的に熟成とは魚の旨味を強め、食感と香りのバランスを考慮しながら仕上げる仕事です。
しかし、白山親方は魚の元々の食感と香りよりも、自身が理想とする食感と香りに変化させる仕事を施します。
すしログ
白山親方の仕事は、熟成の過程で魚の水分を抜く手法が特徴的です。
塩や立て塩による脱水だけでなく、乾燥(風干)なども加えられ、この点においては従来の江戸前仕事の「寝かせ」とは完全に異なるオリジナルです。
また、従来の江戸前仕事である〆と熟成を交互に組み合わせる点も独特です。
〆の後に塩抜きして熟成を掛けて、また〆るなど、あまりにも進化系の仕事で、全てを把握するのは白山親方以外に不可能。
あるタネについては、酢〆を2回行ってから熟成を掛け、その後また酢〆を行い、熟成させ、熟成の過程で酢〆を行うとの事です。
白山親方は「魚の錬金術師」であり、「熟成鮨 万(よろず)」は「熟成のラボラトリー」だと感じました。
実際に白山親方は科学論文も参考にされ、海洋大学と共同で研究をされているそうです。
まさか、鮨職人とJ-STAGEでの論文検索について話す日が来るとは思いませんでした(笑)
※J-STAGEとは、国立研究開発法人 科学技術振興機構が運営する学術ジャーナルのプラットフォーム
魚を扱うシートだけで5種類使い分けているとの事で、驚きます。
「熟成鮨 万(よろず)」のおまかせコースの詳細
それでは、「熟成鮨 万」白山親方の超個性的なおまかせの詳細を、ご紹介します。
この度頂いたお酒
- 平喜酒造、喜平 純米大吟醸
- 大七酒造、生もと純米吟醸
- 宮坂醸造、真澄 辛口生一本
お酒は一合2,500円~です。
北寄貝のスープ
苫小牧産の北寄貝を用い、濃密な北寄貝の甘みを味わえる一品目。
旨味よりも甘みが先行し、一品目に嬉しい貝のスープ。
ウスバハギ
神奈川産で、自家製の2ヶ月醤油麹と共に。
13日熟成。
独自性が極めて高い一品。
塩気は穏やかである。
菊芋
周りは菊芋らしくコリッとしているが、中はトロトロ。
土の香りが良い。
米油をまとわせて、ゆっくりと火入れしているそうだ。
牡蠣
産地は仙鳳趾。
大根おろしを揉み込んで汚れを取り除いた後、大根おろしに2週間漬け込んで熟成を掛ける、類を見ない仕事。
そして、藁で冷燻を行い、75℃の米油で低温調理を行っている。
ぷちりと弾けて、とろりととろける、如何にも低温調理らしい仕上げの牡蠣だ。
鮟肝
和三盆を使用し、これも低温調理。
裏ごしして提供。
水分を抜いているため殊更濃密な味わいだ。
なお、山葵は鮫皮おろし、鋼鮫、鬼泪の3種類でおろしたものをブレンドして使用されている。
九絵
なんと32日熟成。
皮をフライパンに押し付けては離して…を繰り返して水分を抜き、仕上げに炭火で炙っている。
ガリガリ食感の皮に、熟成で旨味が高まった九絵が独特のバランス。
熟成させても食感がぷりっとしていて、脂も乗っている。
この後、握りに移行します。
ガリ
ガリは飯尾醸造ではなく、ミツカンの山吹と優選を使用している。
酸味が立ち、辛味のあるガリ。
鮪中トロ
大間産、21日熟成。
熟成で旨味を引き出し、香りもたっぷりで旨い。
熟成を謳うお店で、名刺代わりの一貫目として鮪、それも中トロを出すところはセンスを感じる。
個人的に最も熟成が必要なタネは鮪だと考えるので、熟成のメルクマールを提示するには有効な手だろう。
なお、器は「岐阜県多治見の高木さんのお皿」とのこと。
鮪赤身
山葵と京都の和芥子を混ぜた煮キリに漬ける仕事。
赤身は旨味も香りもバッチリ。
鮪トロ
こちらは戸井産。
シャリ温を高めて一体感を向上させ、トロの甘みを強く感じさせる。
鯖
五島産で、14日熟成。
熟成を施した鯖だが、初手から香りが良い。
旨味と脂がしっかりと感じられ、後から鯖の香ばしさが再び漂う。
ボタン海老
古平産で、殺菌してから1週間熟成。
殺菌にはオゾン水を4.5%の塩水塩を使用しているそう。
ホロッホロで、溶けるような謎の食感に驚く。
これは低温調理で3~4割火入れを行っているため。
真鯛
16日熟成。
トロトロではなくムチムチした食感。
個人的には、やはり真鯛は1~2日寝かせの範囲内が好きだ。
香り、食感、旨味のバランスと、皮目の食感において、「熟成」ではなく「寝かせ」でも良いように感じる。
鯛を始めとする食感と香りに妙がある白身魚の熟成は難しい。
金目鯛
ここでもシャリ温を上げて、旨味が圧倒的な金目鯛に合わせる。
喉で甘みを感じるほどで、熟成の技を実感する。
針魚
バチバチと強い食感であるが、しっとり、ほろりと繊維がほどける。
氷温で1週間熟成させた後、3日ほど塩漬けを行い、塩抜きしてからお酢3水7で軽く酢〆をしているそう。
プロセスを文字で書くほどに、白山親方だからこそ出来る熟成だと知るばかり。
カワハギ
身のみならず肝も10日熟成させている。
肝の熟成は珍しさだけでなく味わいも珍しい。
溶け具合があたかも乳製品的のようだ。
4時間かけて血抜きを行っているため、熟成に耐えうるそうだ。
さらに軽い漬けにして握ることで鮨としての一体感を高めている。
香箱蟹
ストレートに美味いタネ(笑)
これは熟成は掛けられていないと思う。
カミナリイカ
神奈川産…とのことなので、おそらく長谷川大樹さんのものか?
ムチムチ、ゴワゴワと独特の食感。
味噌だまりに通してから握るそう。
なによりも凄い旨味に驚く。
鰤
33日熟成。
醤油に漬けてから干しているそう。
よって、生ハムのような密度で、濃厚な旨味は凄いパンチだ。
間に香りが強いエシャレットを噛ませているが、旨味が強烈なので合っている。
筋子
こちらは塩漬けしてから干して、昆布醤油に漬けて干して…を繰り返し、塩抜きして握っている。
濃密に凝縮されていて、トロトロではなく、皮が確かにぷちりと弾けて、とろりととろける興味深いテクスチャーだ。
マカジキ
38日熟成。
これも旨味が強烈で、みっちりした食感。
椀
熟成魚の骨出汁の赤出汁。
味噌は信州味噌の特注品。
東松島・相澤さんの岩海苔を使用。
強い旨味に味噌の風味がバランス良し。
玉子
甘鯛のすり身と和三盆を使用し、プリンに近い方向性の玉子。
プリンでありながら甘鯛の存在を感じるところに鮨店の玉子っぽさを残している。
炭火で焼いているそうでビックリ。
ばらちらし
お土産で頂いた世界で一つの【熟成ばらちらし】だ。
白いオボロは真鯛のオボロ、黄色いオボロは芝海老と車海老のオボロ、白いペーストは焼き穴子を伸ばしてガリと煮ツメと山椒を混ぜたもの。
江戸前仕事と熟成仕事を合わせた完成度の高い創作ばらちらし。
コロナ下でばらちらしを出す職人が多かったが、海胆やイクラなど生のタネを多用している方が多く、ばらちらしを知らないな…と悲嘆した。
昔の職人さんは技術だけでなく鮨の教養も半端なかったが、最近は習った事とインスタの写真が全てなのかなと。
そのような観点で、白山親方はばらちらしと向き合っている点が素晴らしいと感じる。
用いる仕事は「熟成」で賛否両論あるだろうが、江戸前鮨に対する考えは賛否両論あるはずはなく手放しで賛辞を述べるべきものだ。
味わいとしても高度に結実している。
「熟成鮨 万(よろず)」のお店情報と予約方法
WEB予約については、トレタとヒトサラ経由で可能です。
ヒトサラは満席のことが多いようです。
熟成鮨 万(トレタのリンク)
店名:熟成鮨 万(じゅくせいずし よろず)
シャリの特長:酸味が強く、旨味も強い、そして超硬めの炊き加減で完全に熟成鮨仕様のシャリ
予算の目安:おまかせ27,500円
TEL: 050-5357-2320
住所: 東京都渋谷区東4-6-5 ヴァビル301
最寄り駅:表参道駅から1km、渋谷駅から1.2km、広尾駅から1.2km、恵比寿駅から1.2km
営業時間:【第1部】18:00〜20:30、【第2部】20:45〜23:15
定休日:日曜
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