こんにちは、鮨を愛する鮨ブロガーのすしログ(@sushilog01)です。
この度のコラムでは、鮨におけるワサビ(山葵)の魅力についてお話しいたします。
実は、ワサビとは、鮨を始めとする和食において一般的に思われている以上に重要な食材です。
鮨好きならば「うん、うん」と強く首肯頂けるかと思いますが、世間では未だにワサビの本当の魅力が認識されていないのが寂しいところ…。
刺身のワサビについて吟味している人ってマイノリティですよね?
それは食べ手だけでなく作り手も本ワサビの魅力を知らないため、あるいは蔑ろにしているためだと言えます。
よって、ワサビの凄さと魅力を伝えねば!と謎のテンションで思い立ちました。
現在、ワサビはコロナ禍を受けて価格が下がっている状況です。
このこと自体は由々しき問題ですが、消費者としてはワサビの生産者さんを支えつつ、ワサビの魅力を知るチャンスと言えます。
飲食店にはコロナ補助金が出ますが、生産者さんには出ない状況なので…。
本来ならば高級店に出回るクラスのワサビを自宅で頂けて応援できるとは、なんて幸せなことではないでしょうか?
本稿でワサビの魅力を感じて頂けましたら、是非とも良いワサビを購入してみてください!
この機会にワサビとの関係性を深めてはいかがでしょうか?
タップできる目次
ワサビクイズ~これはOK?それともNG?~
いきなりですが、まずは親近感を持って頂くべくクイズをご用意しました。
心の中で答えてみてください。
【質問】
- チューブワサビの原材料は100%ワサビ?
- 刺身を食べる時、醤油にワサビを溶くのはアリ?ナシ?
- ワサビを美味しく食べるには、なるべく粗くおろした方が良い?
- ワサビの保存方法は、水に漬けておくのが良い?
- ワサビは日本全国で育てられる?
- 鮨店でワサビ抜きを頼むのはマナーに反する?
1. チューブワサビの原材料は100%ワサビ?
答えは「ノー」です。
「本ワサビ使用」と謳っていても割合は50%未満の事が多く、ホースラディッシュと混ぜる事が一般的です。
ホースラディッシュは本ワサビとは別種になり(セイヨウワサビ、あるいはワサビダイコン)、そもそも辛味成分の構成が違います。
そして、廉価で辛味が強いので、粉ワサビや練りワサビに多く使われています。
また、残り50%の全てが本ワサビである事は極めてレアで、砂糖、食塩、油、でんぷん、セルロース、酸味料、香料、着色料、増粘剤などが添加されています。
どちらが良いかは「人の好み」とお答えしますが、本ワサビとチューブワサビは全くの別物です。
チューブワサビ派の人も、本ワサビを別物として味わってみると、魅力が一層分かるのではないでしょうか?
そして、魚が一層美味しく感じる事は間違いありません。
チューブワサビが苦手な人が、回らない鮨店で本ワサビの魅力に気付く事は、しばしば有り得る事です。
2. 刺身を食べる時、醤油にワサビを溶くのはアリ?ナシ?
答えは「好み」です。
二択を装った引っ掛け問題ですみません。
しかし、後ほど詳しく書きますが、本ワサビにはチューブワサビには無い香りと甘みがあります。
これを台無しにするのは勿体無い!
何も通ぶっているわけではなく、味の面での個人的なオススメは「ナシ」となります。
「好み」ではありますが、「食べるセンス」を問われるのが「ワサビを溶くか否か問題」ではないでしょうか。
3. ワサビを美味しく食べるには、なるべく粗くおろした方が良い?
答えは「ノー」です。
ワサビはきめ細かくおろした方が美味しさが引き立ちます。
葉や茎も刻んだ刻みワサビは別の話となりますが、おろしワサビの場合、細かくおろすのが美味しさの秘訣です。
4. ワサビの保存方法は、水に漬けておくのが良い?
答えは「ノー」です。
搬送時や販売時は水に漬けられていますが、自宅で保存する際には、乾いている方がベターです。
水気をふき取り、キッチンペーパーで包んだ後にラップで密閉して保存するのがベストです。
また、常温はもってのほかで、冷蔵保存する必要があります。
5. ワサビは日本全国で育てられる?
答えは「ノー」です。
ワサビは冷涼な環境でしか育たず、適切な水温は8.0℃~18.6℃と言われています。
下限と上限の両方で諸説ありますが、平均化すると大体この通り。
そして、水温差が少ないほど育つとされます。
ワサビの味を左右する最も重要な要素は、水の養分と水温です。
6. 鮨店でワサビ抜きを頼むのはマナーに反する?
答えは「ノー」です。
ワサビ抜きでも全く問題ありません!
これは好みですから。
体質的にNGな人もいますし。
ワサビ抜きで機嫌を損ねる職人さんは今日びいませんので、ご安心を!
もしも遭遇されたら、ご一報ください。
さて、ワサビクイズの後は、いよいよ本題です。
ワサビについて深掘りしていきます。
ワサビの美味しさとは?魅力を語る!
ワサビの食文化史を簡単に述べると、以下の通りです。
宝暦年間(1715年~1763年)に、日本で初めてワサビ漬けが商品化。
1800年頃、文化時代に鯖の押し寿司で初めてワサビを使ったという記録アリ。
現在は鯖寿司ではワサビをあまり使わないので、これは意外な真実!
そして、文政年間(1818年~1830年)に握り鮨が生まれて、ワサビも大ブレイク!
今に至る。
品質に応じて1キロ600円~7000円までになる、高級な嗜好品であり、日本が誇る最高峰のハーブがワサビです。
しかし、本ワサビの魅力については、身も蓋もない話ですが、先ほどのクイズ「刺身を食べる時、醤油にワサビを溶くのはアリ?ナシ?」の答えが全てを表しています。
本ワサビの魅力とは、香り、甘み、辛味です。
そして、特に香りと甘みが重要な要素だと思います。
「ワサビは辛い」と思われがちですが、美味しい本ワサビは香りと甘みからフルーティな印象すら感じます。
「醤油にワサビを溶く問題」についてのマジレス
「醤油にワサビを溶く問題」は議論に上がりがちな話題ですが、議論を複雑化している理由は、ソースがグルメ漫画『美味しんぼ』だからでしょう。
「通ぶっている」とみなされる事が多いので反論を生んでいるように感じます。
以下は個人的な見解となりますが、ワサビを溶くか溶かないか?については、好みの問題になりますが、食材次第である事は間違いありません。
そして、確率論的には「溶かない」方がジャスティスです。
何故なら醤油に溶くと明らかにワサビの味が失われるからです。
「辛味を和らげるために醤油に溶かすのはアリ」と言う意見もありますが、それなら使わない方がベターです。
香りも失われてしまいますので。
刺身に使う醤油は濃厚な醤油である事が一般的なので、本ワサビの美点が全て失われてしまいます。
ワサビを香りの観点で語る方は少数派のようですが、ワサビは和製のハーブなので、香りも重要な要素である事は言うまでもありません。
本ワサビを食べ慣れていない方は、混ぜワサビの要領で醤油に溶かしがちかもしれません(ビジネスパーソン的には中堅からベテランの世代の方が多い気がします)。
しかし、そもそもそれらは別物なので、別の方法を採った方が良いです。
鮨はもちろん、刺身などの魚介料理から、牛肉まで合うワサビ。
辛味ならば唐辛子や和芥子などもありますが、やはり香りと甘みが他には無いからこそ、相性が良いのではないか?と思います。
おろし器による味の違い(金おろし、鮫皮おろし、鋼鮫)
そして、ワサビの味で重要なのが、おろし方です。
おろし器は具体的には金おろし(銅製おろし金)、鮫皮おろし、鋼鮫(はがねざめ)の3種類があります。
なお、セラミック製のおろし器やチーズグレーターはワサビをおろす際には無力です。
折角のワサビが美味しくなくなってしまうので、ご注意ください。
金おろし、鮫皮おろし、鋼鮫の違いは、下記の通りです。
粒子 | 粘度 | 辛味 | 甘み | 香り | |
金おろし | 粗い | 低い | 1.0 | 弱い | 標準 |
鮫皮おろし | 細かい | 高い | 1.2 | 強い | 強い |
鋼鮫 | 非常に細かい | 低い | 1.5 | 非常に強い | 強い |
【鋼鮫】についての情報は「すしログ御馳走帖」にまとめました。
ご関心のある方は、合わせてご参照ください。
当サイトでは、料理において、それぞれのおろし器をどう使えば良いか?について考えたいと思います。
ちなみに、ワサビの辛味については、ワサビの細胞内に含まれているミロシナーゼが同じ細胞内のアリルからし油を分解することで生じます。
よって、おろし方、おろす器具で辛味が変わる次第です。
そして、ワサビの甘みについては、ワサビのβ-アミラーゼと唾液中のプチアリンによってブドウ糖が麦芽糖に急速変化するために生じます。
甘みはおろし方よりも化学変化のメカニズムに依拠することを前提として記載いたします。
金おろしが向いている料理
食べ比べした感想としては、最初に感じる辛味が強く、香りが鼻にツーンと抜けて、口当たりは粗いです。
粒粒感があり、辛味が直線的なので、肉類との相性が良いと思います。
または、魚介類についてはブリやハマチなど、脂が乗っていて、厚切りでも美味しい魚が合います。
白身魚などの繊細な味の魚については、やめておいた方がベターです。
鮫皮おろしが向いている料理
金おろしよりも辛味をより強く感じ、舌に広がった後、鼻にツーンと抜けて、口当たりは粘度があります。
辛味と香りは抜けるので、爽快感を味わえます。
これは白身魚にも合いますので、あらゆる料理に使えます。
流石、普及率が高いサメ皮おろし長次郎ですね。
おろし器の中ではユーティリティプレーヤーだと感じました。
鋼鮫が向いている料理
最初に感じる甘みの強さが圧倒的です。
甘みの後に辛味をビリビリと強く感じつつ、また甘みに戻ります。
これは凄い!
香りも引き立ちますが、直線的ではなく、まろやかに感じます。
口当たりはふんわり、瑞々しいです。
合う料理は強い味付けのものよりも、上品な味付けのものがベターだと思います。
ワサビの甘み、香り、食感を最大限楽しむためのおろし器だと感じました。
さて、ワサビの魅力は感じて頂けたでしょうか?
ワサビを買って、使ってみたくなった方がいらっしゃれば幸いです。
良いワサビで食べる【ワサビ丼】は格別ですよ!
次は、ワサビの一般的な情報についてまとめます。
美味しいワサビの選び方、おろし方、保存方法を伝授!
美味しいワサビの選び方
競りにおける「良いワサビ」は、鮮度…特に緑色の鮮やかさで判断されます。
サイズが大きくても色が悪いと、サイズは劣るが緑色が鮮烈なものに負ける事もあります。
個人で買う場合のポイントは、同じく緑色が鮮やかである事に加えて、根元から先端まで同じ太さである事、イボイボの間隔が狭いもの(じっくり生長した証)となります。
1,000円絡みの高級ハーブなので、損をしないよう、選びましょう!
ワサビの美味しいおろし方
そして、次にワサビの美味しいすり下ろし方。
盲点かもしれませんが、下からすりおろすのはダメです。
前提として、部位によって辛味成分が異なる事をご理解ください。
実はワサビは茎や葉っぱの付いている元(頭)の方が成分濃度が高いのです。
元の方が若いため、柔らかくて瑞々しく、香りが良く、粘りも強く、緑色が濃いおろしワサビになります。
同時に、茎は包丁で落としてはダメ!
手で丁寧に取り除いてあげましょう。
茎のすぐ下にすりおろせる根茎があるので、包丁で落としては勿体無いのです。
取り除いた茎や葉っぱは三杯酢漬けや醤油漬けにしましょう!
茎を取り除いたら、輪を描くようにおろします。
空気と混ぜ合わせて、ワサビの辛味成分をアクティベート!
最後に、ワサビはおろした後に包丁の背で叩くと粘りが増します。
粘度の高いおろしワサビを作りたい時は、活用してください。
なお、辛味を増すために砂糖を加えるテクニックもありますが、個人的には推奨しません。
何故ならワサビ本来の甘みを台無しにしてしまうためです。
ワサビの保存方法(長持ちさせるコツ)
最後に、ワサビの効果的な保存方法をご紹介します。
ラップに包んで低温保存が鉄則です!
これによって植物の酵素反応や化学反応ならびに、微生物の生育を抑制出来ます。
個人的に、乾いたキッチンペーパーで包んだ後にラップで密閉して冷蔵庫野菜室に縦置きがベストかと思います。
キッチンペーパーのみ、ラップのみ、水が入ったタッパーに入れて毎日水を変える方法なども色々試しましたし、コロナ下の営業でワサビを1日に使い切れない鮨職人にも聞きましたが、良いとこ取りをして上記に至りました。
ワサビの品種と主な生産地
まず、ワサビは栽培方法で2つに分類されます。
清流の流れるワサビ田で栽培される「沢ワサビ(水ワサビ)」と、山や畑で栽培される「畑ワサビ」があります。
どちらも鮨や魚介料理で使われるのは「沢ワサビ」で、加工品に使われるのが「畑ワサビ」になります。
そして、品種については、下記のように分類できます。
晩稲(おくて)品種 | 収穫まで約24ヶ月 | 真妻1号、真妻3号(1号の会良品)、天城にしき、島根3号(匹見ワサビ)、長野23号 |
中手(なかて)品種 | 収穫まで約20ヶ月 | 正緑(親品種は真妻)、イシダル、グリーンサム |
早生(わせ)品種 | 収穫まで約12~18ヶ月 | 鬼緑、丸一、こまち |
最上級の品種は「真妻(まづま)種」です。
真妻種は静岡県で栽培が広がった品種ですが、生まれ故郷は和歌山県(旧真妻村)です。
そして産地については、現在の「2大産地」は静岡県と長野県です。
本ワサビについては、国内の90%以上が2県で生産されています。
そして、3番手に東京都が続き、その後、「東の静岡、西の島根」と呼ばれた島根県が続きます。
ただ、上記は「出荷額ベース」で、「生産量ベース」だと以下のようになるそうです(出典:農林水産省「作物統計」2018年)
- 長野県(801.7t、38.50%)
- 岩手県(484.3t、23.30%)
- 静岡県(468.6t、22.50%)
- 高知県(73.2t、3.50%)
- 島根県(50.6t、2.40%)
なかなか興味深いですね。
静岡産のワサビはブランドが確立している証かもしれません。
なお、ワサビの栽培法は主に5つです。
畳石式が最も高品質なワサビを生産すると言われ、他は渓流式、地沢式、平地式、北駿式となります。
伊豆の上質なワサビは畳石式が多いため、評価が高い次第です。
最後に、ワサビの生長は2年(24ヶ月)がマックスだと一般的に言われています。
それ以上だと味の変化が止まる上に、くびれが出来て市場価値が低下してしまうそうです。
2年以上の歳月をかけて上質なワサビを作られている方は、ワサビ作りの匠だと言えます。
まとめ
以上でワサビの魅力についての記事を終えます。
現時点で知っている知識を総動員して書きましたが、完璧ではないと思いますので、今後の経験からアップデートしていきます。
すしログ
最近冷蔵庫に常にワサビがある、すしログ(@sushilog01)でした。
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文中でもご紹介した姉妹ブログでの【鋼鮫】についての記事
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伊豆のワサビの食べ比べ記事
https://sushi-blog.com/feast/izu-wasabi/
魚を美味しくさばくための道具についての記事
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