料理旅館&オーベルジュが大好きな、すしログ(@sushilog01)です。
さて、「日本で最も美しい村」連合に加盟する大鹿村。
少し行きづらい場所にありますが、なぜか僕は4回も訪問しています(笑)
好きな理由は村に流れる時間。
険しい山々の合間にあって穏やかな時間が流れる独特の雰囲気は、人によっては異世界感すら抱くかもしれません。
今回訪問した「旅舎右馬允」さんは、昔からお伺いしたかった憧れの料理旅館です。
すしログ
長野県大鹿村の「旅舎右馬允」の魅力とは?
「旅舎右馬允」さんの魅力は雰囲気と御料理の両方にあり、それらが切っても切り離せないくらい密接に結びついているところです。
あえて足を運び、こちらの空間で頂く必然性があります。
こちらの御料理や食材を都会に持ち運んで頂いても、同じ美味しさには決してなりません。
宿に着くと空気がガラリと変わったことをすぐさま実感します。
肺を満たす草木の香りが心地良い。
大正時代から残る建物に入ると、旅する喜びを心から実感します。
夏にはひぐらしの声と深緑。
お食事までのゆったりした時間が、料理旅館の醍醐味と言えます。
なお、「右馬允」という変わった名称は江戸時代の役職名に由来するそうです。
建物の周囲には土蔵が幾つも残り、由緒ある家系を感じさせる、純日本式の贅沢な空間です。
御料理の魅力は、地産地消の醍醐味に尽きます。
そして、食材力だけでなく独自性の高い調理もされている点が記憶に残ります。
一つ一つの御料理が確かな記憶に残ることは結構珍しい。
僕は今回、【鮎尽くしコース】目当てで7月に訪問しました。
結論として、地(川)に根付いた鮎の味を実感し、今まで頂いた他の河川とは異なる魅力に惚れ惚れしました。
しかも、定番の御料理だけでなく独創性のある御料理も交えられ、むしろ後者の方が多いくらい。
つまり、高度な味のレヴェルでテンションをキープされつつ、先が見えないサプライズもある素敵な内容です。
今回頂いた鮎は和知野川の天然モノ。
和知野川は大鹿村から60~70km離れた天竜川の支流の川とのことです。
遠く離れた場所からはるばる調達頂き、ありがたい限りです…
このような食材との出会いも食旅行をしなければ得られない感動です。
鮎などの淡水魚にしても、キノコや山菜などにしても、やはり産地=旅先で頂くと幸せひとしお。
素晴らしい香りに恍惚となり、この香りを楽しむために旅する価値がある、と確信しました。
「旅舎右馬允」さんの年間スケジュール
- 年末年始(12月31日~1月3日):30,800円
- 1月5日~8月中頃、11月下旬~12月30日:19,800円
- 鮎尽くしコース(6月中旬~7月下旬頃):24,200円
- 天然キノココース(8月下旬~11月中旬):24,200円
※松茸料理については要相談
年間を通して最も人気なのが松茸の時期とのことで、半年前から予約しないと埋まってしまうと言われています。
ただ、御料理も空間も押しなべて素晴らしく、素敵な滞在になったのですが、非常に気になる点もありました。
それは御料理の提供スピードが極端に速すぎる点です。
2組貸し切りの料理旅館なのに、御料理を頂く前に次の御料理が届くため、御料理を頂く最適なタイミングがずれていきます。
御料理を3分の1ほど頂いた時点で、次の御料理が届いてしまうのは残念…
せわしない都会のお店よりも提供スピードが格段に速い点は、宿に流れる時間とのギャップが大きく、意外に感じました。
なお、数年前まではランチに御料理のみ提供されていましたが、現在は宿泊のみの予約となります。
個人的には宿としてもお客としても大正解の選択だと思います。
御料理の味だけでなく宿としての味も噛み締めて、「旅舎右馬允」の御料理は一層の精彩を帯びるので。
「旅舎右馬允」の夕食の美味しさについて
「旅舎右馬允」さんの夕食の内容をご紹介します。
今回頂いたものは、上述のとおり【鮎尽くしコース】です。
鮎尽くしコースの内容
- 八寸:冷たいトウモロコシのスープ、実山椒と鮎の蒸し寿司、釣ってきた虹鱒の燻製、スベリヒユの酒粕和え、鹿肉の春巻き、夏大根の酢のもの、きゃらぶき、モロッコインゲンの白和え、夕顔、山クルミとカボチャの金団
- 鮎のがんもどきの土瓶蒸し
- 鮎の刺身
- 鮎の握り鮨
- 鮎と夏大根の炊き合わせ
- 鮎の塩焼き
- 鮎のうるか味噌焼き、骨煎餅
- 鮎の蕪蒸し
- 鮎の天麩羅、他天麩羅:シシリアンルージュ、シチリア茄子、香茸、わらび味噌の大葉挟み揚げ、鮎の骨と頭の天麩羅
- 鮎の甘露煮
- 鮎ざく
- 鮎雑炊、香の物
- 水菓子:クロモジのアイスクリーム、ハマナスのグラニテ
この度頂いたお酒
- 濃鶴、純米吟醸60 田皐(美山錦)
- 春一番地、純米吟醸 無濾過生原酒(ひだほまれ)
- 今錦、特別純米酒 中川村のたま子 生酒(美山錦)
- 本金、純米無濾過生原酒(山恵錦、長野酵母C)
お酒はカプロン酸エチル(リンゴ様の香り)が強い、長野の香り酵母のものが多いようです。
八寸:冷たいトウモロコシのスープ、実山椒と鮎の蒸し寿司、釣ってきた虹鱒の燻製、スベリヒユの酒粕和え、鹿肉の春巻き、夏大根の酢のもの、きゃらぶき、モロッコインゲンの白和え、夕顔、山クルミとカボチャの金団
まずは、【冷たいトウモロコシのスープ】で胃を穏やかに刺激する。
トウモロコシの甘味とミルクの強い風味が優しい気持ちにしてくれる。
【実山椒と鮎の寿司】は「蒸し寿司」と言うのが嬉しい上に、鮎の香りを楽しめる素敵な創作料理。
【釣ってきた虹鱒の燻製】は、しっとり食感に仕上げているのが素敵。
【鹿肉の春巻き】については、作り立てで嬉しく、温かくてサクサク。
山椒の香りとシビレも爽快。
【スベリヒユの酒粕和え】は、ぬるっとした口当たりの後に、すぐにシャキシャキした食感を楽しませてくれ、酒粕の香りが心地良い。
【夕顔】には繊細な出汁を含ませている。
【山クルミとカボチャの金団】も、こちらでしか楽しめない香りに包まれる。
鮎のがんもどきの土瓶蒸し
「鮎のがんもどき」と聞いて、テンションが上がらない人はいないだろう。
がんもどきは超ふわんふわんな食感で、鮎の香りも楽しめる。
感動的な味わいだ。
枝豆も使用されていて、夏らしい香りを添える。
ミョウガの新芽と鮎の身も泳いでいる。
そして、土瓶蒸しの土台と言える、吸い地が白眉。
キノコ出汁に鰹出汁を利かせていて、味わい深い吸い地だ。
鮎料理にキノコ出汁を使用されている点が大変嬉しい!
しかも、夏らしいタマゴタケに、アカヤマドリタケと主役級!
鮎の刺身
氷水でキリッと締めた身はプリッとした食感で、脂が乗っていて、香りが良い。
脂が乗っていると言っても清涼感があり舌に残らないところは天然故か。
臭みや苦味は皆無。
左下のオレンジ色の花はノカンゾウ(野萱草)。
鮎の握り鮨
意表を突く一品が登場!
地物のフィンガーライムをあしらい、イタドリ、ホタルブクロの甘酢漬けをガリの代わりに添えている。
ホタルブクロを甘酢漬けにするとは極めて珍しいが、当地では昔から食されているそうだ。
鮎は軽く脱水されていて、甘味のある酢飯と合う。
何よりも、鮎の香りがこみ上げてくる点が素晴らしい。
フィンガーライムは酸味や香りだけでなくプチッとした食感も楽しめ、爽やかな鮎に効果的なアクセントだ。
鮎と夏大根の炊き合わせ
奥に添えられているキノコは、チチタケ、ヒロハチチタケ。
夏大根は香りが良く、甘味がありつつホロ苦くて美味しい。
そして、全体から鮎の香りも広がる。
鮎の旨味が強いのは鮎の脂のためだろうか。
鮎の塩焼き
蓼酢ではなくクレソン酢で頂くところがお洒落だ。
これは決してクレソンに置き換えている点がお洒落と言うわけではない。
酸味と香りの面で実際性が高い点がお洒落である。
しかも、当地には蓼が自生しないそうだ。
地に根付いたストーリーテリングこそ旅人の心を動かす。
肝心の鮎は、苦味が軽めで旨味が強い。
さらに、甘味があり、香りは上品。
旨味と甘味の強さが印象深い鮎で、問答無用で感動に誘う。
やはり上質な【鮎の塩焼き】は一流のステーキに引けを取らない珠玉の料理である。
うるか味噌焼き、骨煎餅
うるか味噌は三年モノで、蕎麦味噌のような提供方法に目を奪われる。
ただ、御料理は非常に魅力的だが、【鮎の塩焼き】を3分の1ほどしか頂いていないタイミングでのご提供であったのが極めて残念だ。
【鮎の塩焼き】自体も【鮎と夏大根の炊き合わせ】を頂き終わる前に登場したので急いで食べたのだが、さらにスパンが短くなり危機感を抱く。
流石に、お伝えした。
料理は一皿への向き合い方で味が変わるもの。
椀子そば状態では食材が可哀そうだ。
鮎の蕪蒸し
非常に魅力的な一皿。
見た目も味も良く、使用しているキノコが面白い。
アンズタケである。
名前のとおり杏のような香りが甘美。
鮎、シシリアンルージュ、シチリア茄子の天麩羅
鮎は肝の旨味が非常に強い。
しかも、甘味もある。
身はしっとりしつつ、瑞々しさがあり、ホロりとほどけ、香りがしばらく続く。
シシリアンルージュはセミドライ状にしているようで、甘味と旨味が凝縮されている。
シチリア茄子はトロトロとろけ、甘味と爽やかな香りが広がる。
添えられているのは、大鹿村の名産である山塩だ。
香茸の天麩羅、わらび味噌の大葉挟み揚げ
香茸は、何と初物!
素晴らしい香りと旨味の強さ!
そして、ホロ苦さがふわっと残る。
揚げることで変化する食感も良い。
わらび味噌の大葉挟み揚げについては、なにも海胆じゃなくても感動に導けることを力強く感じさせてくれる。
ヤングコーンの天麩羅
ヒゲはサクサク!と気持ちが良い食感で、香りも申し分ない。
そして、甘い。
軸に近い方はコーンらしい程良い食感がある。
最初と最後で味が違うのが嬉しい天麩羅だ。
鮎の骨と頭の天麩羅
お造りで使われた鮎。
これは嬉しいな…。
余すところなく調理される姿勢が素敵だ。
もちろん味も良い。
鮎の甘露煮
「ここに来てクラシックな御料理で、甘味も割と強め…」かと思いきや、食感で意表を突かれる。
ホロッホロに表現されていて、モダンな感性を感じる。
骨や頭は非常に柔らかく煮られているのに、身の繊維質を楽しませるのは独特の仕事だ。
しかも、ホロッホロなのに鮎の香りをバッチリ残している点も秀逸。
香りを楽しめない鮎料理は鮎である意味が無い。
鮎ざく
添えられているのは、キュウリ、マスタケ、黄色春菊。
コースの最後に嬉しい口直し。
酢のものにも鮎を使用している点が尚嬉しい。
しかも、味付けは洗練されていて、酸味が軽やかで甘味も少し強めにしつつも上品な範疇に収めている。
鮎雑炊
鮎だけでも嬉しいところ、ヤマドリダケ、香茸も使用し、庭のニワトリの卵でとじている!
ポルチーニと香茸の香りが食欲を刺激し、焼き鮎の香ばしさが調和する。
一言で述べると、使用する食材も調理法もこちらなたではで絶妙。
旨味と香りが重層的で、雑炊ながらに野暮ッたさや重たさが皆無。
塩味の調整も良い。
水菓子
クロモジのアイスクリーム、ハマナスのグラニテ添え。
これは都会のレストランクラスのデザート。
「旅舎右馬允」の朝食の美味しさについて
「旅舎右馬允」さんは朝食も非常に美味しいです。
基本的なことになりますが、全て手作りなところが素晴らしい。
文字に書くと「全て手作り?当たり前では??」と思う人もいるかもしれませんが、旅館の朝ご飯で全て手作りなお店は、むしろマイノリティ。
まして使用している食材が全て地のものであるお店は稀有です。
庭のニワトリの卵の玉子焼き。
大鹿村にあるお豆腐屋さんの厚揚げで作った納豆挟み焼き、チーズ入り。
そして、メインディッシュは、やはり白米。
美味しいお米を美味しく炊くだけでメインでディッシュになるのが、日本料理だ。
さらに、朝から【鮎の一夜干し】を頂けるなんて幸せすぎる。
ご飯の〆は庭のニワトリの卵でTKGだ。
そして、水菓子。
村の名物のブルーベリー。
クロモジのハーブティー、クロモジのチーズケーキ。
ハーブティーはフレッシュに限る。
「旅舎右馬允」のお店情報と予約方法
「旅舎右馬允」さんは、人気が高い料理旅館なので、早めの予約が必須です。
特にキノコの季節は人気が高いため、予約を取ってからスケジュールを決めるのが良いと思います。
店名:旅舎右馬允(りょしゃうまのじょう)
予算の目安:季節によって価格が異なるので、文中のリストを参照
最寄駅:なし
TEL:0265-39-2037
住所:長野県下伊那郡大鹿村大河原3080
営業時間:チェックイン15時、チェックアウト10時
定休日:無休
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