こちらはかつて織田信長の城下町であった安土に在る、1911年(明治44年)創業の老舗料理店です。
元々は仕出しメインのお店でしたが、現在のご主人の代で懐石料理も供するようになった模様。
まだお若いご主人・瀬海悠一朗さんは創業101年目を迎える際に大阪の修行先から戻り、生産者や陶芸家さんとの交流からインスピレーションを得つつ、オリジナリティ溢れる料理を作られております。
伝統的な郷土料理にモダンな感性を交えた御料理は此処でしか頂けないものばかり。
「滋賀らしさ」を組み込み、その日その日の食材でコースを編んでおられます。
お店は完全予約制で、基本的には4人以上が必要。
それ以下の場合は、コース内容を含めてお電話にてご相談されてください。
頂ける食材は訪問する日の「食運」次第となりますが、逆に、アドリブが利いた料理はこちらの魅力の一つだと感じました。
お部屋に通された後に頂いたお茶は大変旨く、称賛したところ、雁ヶ音の茎茶を使用されているとの事でした。
お茶の美味しい日本料理店は外す事が少ない気がします。
再訪時の記事もございます。
頂いた御料理は下記の通りです。
鮎鮓
滋賀の伝統鮓である【め鮓】をアレンジした一品。
伺ったところ元々は「ハイを用いる鮓」との事なので、標準和名オイカワを用いた発酵料理(ナレズシ)だと推察する。
ハイを使用する場合は3日間発酵させるそうで、タイミングが良ければこちらでも頂けるとの事。
小魚で作る鮓ゆえに一度に大量に作る必要性がある為、出会えるか否かは正に食運次第だ。
しかしながら、この度の小鮎を酢で〆て作った「早熟れ」の鮓も一興。
「早熟れ」なのでサッパリとした味わいで、微塵切りの紫蘇を噛ませ、すりおろした生姜を合わせ、夏らしい爽快感を演出した先付に。
使用するお米は酒造好適米のイセヒカリ。
甘みを付加し、全体的なバランスを取っている。
ハイを用いた伝統的な鮓も気になるが、伝統料理をアレンジした秀逸な品であると一品目から感嘆した次第である。
天然琵琶鱒の冷燻製
頂けるかな…と期待を頂きつつ訪問した為、出会えて嬉しかった琵琶鱒。
山中塗りの皿の上で陽光を浴び、あたかも泳いでいるような盛り付け。
冷燻なので火を通さずにあくまでも軽い燻香を付ける仕事であり、塩気は強めだが、燻製で身は引き締まり旨味が凝縮されている。
琵琶鱒の香りと旨味を楽しませてくれる。
琵琶鱒の筋子が調味料となる。
そして、酢飯と合わせている点も嬉しい。
先付からお米が続くが、ご主人がお米好きとの理由(笑)
完全に同意するところ。
真鯛の皮霜造り
2kgの真鯛を熟成したもの。
熟成の塩梅は中々良く、練られた旨味に炭火での焼き霜が興を添える。
山葵は辛味が低く甘みの強いものを使用し、醤油はたまり的な味わいを持つ土佐醤油をベースに甘みを立てたもの。
器は尾形乾山のカキツバタの茶碗の写しである模様。
焼き茄子とイチジクの利休餡
上記の渋い流れに投じられる、清涼感と美しさに溢れる一皿!
調理法、器ともに実に良い展開である。
しかも、味覚的調和が極めて高い。
焼き茄子の香り、イチジクの甘みに利休餡が絡まり、ジュレの旨味が全てを接続する。
ジュレは今や日本料理で多用される存在だが、こちらのジュレは鰹と昆布を用い、口当たりは硬めで個性を有す。
利休餡は胡麻の風味がしっかりしており、甘みと塩味が全体のバランスを取る。
ひたすら爽やかな味わいだが、胡麻のフレイバーが牽引し、ジュレの旨味が底を支える、実に奥深い味わいであった。
尚、清涼感溢れるガラスの器は竹中悠記さんのもの。
天然鰻の焼きもの
琵琶湖に浮かぶ沖島近くで揚がった鰻。
石臼挽きの山椒と木の芽を添えて。
地焼で焼き上げ、照り焼きよりも飴焼きに近い仕上げ。
身はホロホロで、旨味は厚みを考慮すると強いと言える。
皮は照り照り、パリパリに焼き上げており、これ自体が良き酒肴である。
嫌味無い鰻の皮の香りも心地良い。
鯉の筒煮
なんとここで子持ちの鯉の豪快な料理が投入される。
味付けは甘みが強めだが、身には浸透させておらず、このあたりに伝統料理の現代的なアレンジを感じさせる。
生姜の細切りにご主人の包丁の腕を感じ、強い味付けながらに魅力的な一品。
器が気になったので伺ったところ、近江八幡のビストロだもん亭で腕を振るうアメリカ人料理人の作との事。
また行きたいお店が増えた。
冷やし茶碗蒸し
安土・大中(だいなか)産の玉蜀黍(とうもろこし)のすり流しに葛を打った餡を添えている。
頂いてみると葛はほんの少しの使用量で、嫌味が無い。
具は椎茸と空豆で、卵の風味もしっかりと感じ、素材が良い事が分かる。
薬味の周りに軽くゲランドの塩を振っている点にもグッと来た。
近江牛のミスジと白茄子
こちらの構成で近江牛が出ると、ついつい頬が緩んでしまった。
極めて必然性のある日本料理おける牛肉の使用法だと感じる。
肉はぷるぷる、パツンと弾け、脂は舌に媚を売らない程度の甘み。
出汁に柚子胡椒を溶いて葛打ちした餡も味わいを引き締める。
器は小川顕三さんの信楽焼の片口。
琵琶鱒ご飯
冷燻でも喜びを覚えた琵琶鱒アゲイン!
琵琶鱒の香りが実に!!素晴らしい!
そして、琵琶鱒らしい旨味が出ており、それを活かす上品な味付けも見事。
土鍋は言わずと知れた中川一辺陶さんの雲井窯。
味噌汁は発酵感が強く甘みのある味噌を使用。
ご飯は勿論お替わり…
三杯目
おこげも!
水菓子
マンゴー。本来ならば貴重な琵琶湖産のマンゴーを出したかったそうだが、今回は宮崎産。
ジュレは白ワインを湧水で割ったもの。
デザートもセンスが光る調和に満ちた一品だった。
おまけでレア種無しマンゴーも頂きました。
次回は秋もしくは冬にお伺いしたいと思います。
店名:魚石(うおいし)
食べるべき逸品:卓越したセンスに基づき再構築された滋賀の郷土料理たち。
予算の目安:旬の湖国懐石4,000円〜10,000円、白木六仕切松花堂2,500円〜
最寄駅:安土駅から450m
TEL:0748-46-2030
住所:滋賀県近江八幡市安土町常楽寺994
営業時間:11:00~14:00、17:30〜22:00
定休日:不定休
※完全予約制となります
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