妙味必淡…店内に掲げられた言葉には、箸を進めることによって頷くこととなります。
こちらのお店は滋賀県の外れにあり、予想以上に奥まった場所にあります。
余呉湖を回りこんで到着した先には、重厚ながらに穏やかな雰囲気も併せ持つ建物が待っており、プロの料理人や発酵の研究家も足を運ぶことがある種、意外に感じさせられます。
お店の内装も穏やかで、堅苦しいところは微塵もなく、余呉湖を望む窓からは、心を安らかにする陽光が燦々と射しこんでおります。
ベランダに出ても構わないとのことで、食事の前に湖を眺めて開放感に浸ります。
自然の香りで胃を満たした後は、自然の恵で胃を満たしてもらうことに…
まず最初に出てきた料理は【鹿肉の胡麻和え】。
あまりにも食欲をそそる見た目と香りだったので、写真を撮るのを失念してしまいました。
一口頂いてみると、鹿肉の処理の仕方と胡麻の使い方が非常に良く、繊細かつ地味に溢れた味わい。
噛みしめると力強い香りが漂い、繊維は柔らか。
次いで頂いたのは【鰻のおとし】。
ぷりぷりとした歯ごたえが良く、嚥下した後にたなびく香りが野趣に富んでおります。
骨切りの技術もあり、繊細な中に意外性のある一皿。
そして、次は待ってましたとばかりの、【鯖のナレズシ】。
なんとナレズシに、吉田牧場のチーズをグレーターでおろし、トマトのソースを合わせております。
鯖の発酵は穏やかで、チーズに近しい酸味が協奏し、トマトソースには甘みがあり、バランスに長けている。
三皿で心をつかまれましたが、お次は【稚鮎の酢の物】。
ほろっとほどけるあどけない食感に、香りがほんのり残り、印象深い。
エゴマとワラビをあしらっており、湖と森の産物に心が踊る。
そして、さっぱりな料理が続いたところで、【余呉湖の鰻の焼き物】。
ご主人の徳山氏が釣られた鰻は、体こそ小さいものの、一匹まるまる使用されており、
噛みしめると喜びに満たされます。
地ものの実山椒は香り、痺れに富んでおり、少量ながらに名脇役を演じております。
そして、【ホンモロコと発酵米のソース】。
名残のホンモロコも嬉しいですが、発酵米のソースが極めて印象的。
香りに富み、「旨味を持ったマヨネーズ」のようです。
付け合せはアザミ。
次は、【山菜の天麩羅】。
ネマガリタケ、シオデ、イワタバコ、ヤマブドウと、あまり聞かない山菜を使用。
全て味わい、食感、香りが異なり、非常に面白い天麩羅です。
シオデは微かな粘度が美味く、ヤマブドウは最もジューシーで心地よい苦味(ウドより低い)が気に入りました。
そして、食事の前に【発酵カラスミと鮒鮓】。
ハチミツと合わせた鮒鮓は「和のチーズ」と呼ばれる所以を心から実感。
ハチミツの甘みとピッタリ合っており、鋭い酸味が心地良いです。
鮒鮓の熟成は浅めで、一般的なものよりも爽やか。
よって、もう一品はパンに挟んでオリーブオイルと焼いておりましたが、全く凡庸な創作感がなく、一体化しておりました。
〆のご飯は、名前からして魅力的な、【琵琶湖のスッポンと名残のクマの雑炊】。
クマ肉はクセが無く、固有の香りを楽しむことが出来ます。
スッポンはたっぷりと出汁が取られており、お米は濃密なゼラチン質を纏っております。
生姜の使い方も良く、前面に出過ぎずバランスを取っておりました。
ボリュームもたっぷりで、極めて満足度の高い〆。
これもまた、湖と森の産物への感謝を想起させます。
こちらは水菓子も個性的で、【ナレズシの飯を使ったアイス】。
アイスは少しシャーベット状の食感で、クリームチーズのような味わいでありながら、余韻はナレズシ。
不思議な味わいですが、大変美味です。
かなり変化球かもしれませんが、こちらのコースの最後を締めくくるにふさわしい一品です。
ワイルドミントとヤマブドウも香り豊かで爽やか。
全体的に、滋賀、ひいては余呉ならではの食材を、センス溢れる調理で芸術レヴェルまで高めており、非の打ち所のない名店だと実感しました。
個々の料理の美味しさもさることながら、根底に流れる徳山氏の哲学が素晴らしいです。
料理を口にして哲学を感じることは稀有。
伝統的なナレズシ・発酵料理を新たな領域で再構築されており、余呉の豊かな食材ともども、深く心に残った次第です。
確実に、何度も訪問したいと感じました。
再訪記事もございます。
店名:徳山鮓(とくやまずし)
予算の目安:10,000円~
最寄り駅:余呉駅から1,110m、車がベター
TEL: 0749-86-4045
住所: 滋賀県長浜市余呉町川並1408
営業時間:12:00~14:30、18:00~21:00
定休日:不定休
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