こちらは江戸前の仕事と大阪料理のエッセンスをハイブリッドしたお店。
キタのANAクラウンプラザホテルの前という好立地にあります。
大阪・キタは東京で言うところの銀座のような場所なので、様々な一流店がひしめきあっております。
クラブ(語尾が下がる方)が多い点も同様なのはネックですが(笑)、街が放つ煌びやかさ自体は嫌いではありません。
お店はビルの2階に入っております。
入り口を入ると玉砂利に飛び石が敷かれており、落ち着いた雰囲気。
反面、カウンターが化粧板で安っぽく、つけ場奥が蛍光灯で照らされている点は難がありますが、設えに過剰なお金を掛けていないのは銀座の鮨店と大きく異なり、個人的にはこれはこれで好感度が高いです。
尚、箸は先端が細いものを使用しており、器のセンスも良く、細部に美意識を感じさせます。
ちなみに、現在はランチ営業はされておらず、夜のおまかせ一本勝負となっております。
お酒は10種類強置いておられ、恐らく良心的な価格設定です。
全体的な感想としては、予想以上に完成度が高く、よくぞここまで個性的な仕事を確立されているなと感銘を覚えました。
酒肴は手が込んでおりますが、行き過ぎたところは無い。
大阪流の出汁を感じさせる仕事や、東京とは異なる実験的な仕事が面白い。
そして、何よりもシャリのクオリティが高い。
米酢、赤酢の両方を用い、しかも4種類ブレンドしたというシャリは、少しだけ赤酢が先行しつつバランスを保ち、ほぼ全てのタネと相性が良い。
東京の感覚だと、酢はやや強めだが、関西だと結構強めとの事。
塩気もそこそこ立たせて、炊き加減は硬め。
人肌の温度もキープされており、熱心に研究された痕跡が見られます。
握りの際、まれに掌を打たれたりシャリを僅かに捨てられる事に目を瞑れば、握りの技術は高く、口に入れた途端にパラッと弾けて爽快です。
大阪の鮨店だと、末廣鮓も面白い仕事をされておりますが、大きな違いはシャリの味わいとなるかと思います。
より「大阪的」な味が末廣鮓、「東京的」な色が濃いのがこちらとなります。
ちなみに、両店にある共通点を発見し、面白く感じました。
それは、ともに煮キリと煮ツメを複数種類用意されているところ。
煮ツメは作るのに手間と時間が掛かるので、東京のお店でも一種類にしているのが今やザラですが、もともと江戸前仕事では複数種類使用するのが一般的でした。
大阪で江戸前の古い伝統に出会えるというのは、鮨の進化を見る思いです。
頂いた酒肴は下記の通りです。
鱈白子の蒸し寿司
白子の甘みとシャリの酸味が融合しており、一品目で期待が高まる。
鰹出汁を利かせ葛でとじた餡の味わいも良く、山葵のクオリティも上々。
北寄貝の七味醤油焼き
北寄貝の甘みを活かす醤油と七味の使い方。
使用している七味は頂く前の匂いで原了郭と分かる。
付け合せの葱は針の如き細さ。
全体的に、ご主人の手元を拝見していると、精確で丁寧な切り付けです。
鮃のお造り
岩手産の鮃。旨味と食感のバランスが良好。
お手製のもみじおろしが秀逸で、一緒に食べると鮃の甘みが強調される。
ベースの鰹出汁も穏やかで良い。
柑橘の使い方もセンスを感じさせます。
太刀魚の焼きもの
長崎五島産。
炭火を用い、強火の遠火で焼いている模様。
火入れが良くじゅわっと柔らかで、太刀魚の野趣溢れる香りと旨味を満喫。
イイダコの煮もの
明石産。
しゃっきりした歯切れが小気味良く、下味の浸透具合も比較的穏やか。
桜煮(=柔らか煮)と言うよりも漬け込みに近い印象を与えるあっさりした調理。
出汁と煮ツメの二重奏に奥行きがあり、ディジョンのマスタード(!)との相性も良い。
甘みにマスタード特有の酸味がぴったり。
赤貝と新もの岩海苔、とろろ掛け
赤貝は身とひもの両方を使用し、味付けはとろろ、ポン酢。
赤貝の磯の風味と岩海苔の磯の風味を楽しめる。
この後、握りに入ります。
ガリはほのかな甘みがあるが、辛味がシャープに抜け、ドライな印象を与える。
真鯛
愛媛。昆布で〆ているが、直前である為、昆布の香りを残したり、身を引き締めたりはしていない。
噛みしめると鯛自体の甘みが充満する。
酢橘を使用しているものの、嫌みが無く、全体的に香りの纏め方も巧いと感じる。
熟成とは異なる仕事なので伺ったところ、10℃のワインセラーで1日寝かしているとの事。
鮪中トロ
長崎・壱岐。甘みが強く、適度な酸味もあり。
包丁の入れ方が良く、味わいを強めている。
針魚
カンヌキサイズの針魚。
昆布できっちり〆ており、針魚の食感と甘みを楽しませてくれる仕事。
大葉の使い方も上品。
鮪大トロ
ミルキーな脂質だが、決して下品ではない。
シャリとの相性が非常に良い。
小鰭
〆加減は強過ぎず、浅過ぎず、非常に秀逸。
香りと強い旨味を残し、東京都外で頂いた小鰭としては印象に強く残る。
金目鯛
柔らかくなりがちな金目鯛だが、シャクシャクした食感が気持ち良い。
甘みもたっぷり。
ここまで6貫頂き、個性的なタネの構成だが、メリハリが利いており面白いストーリー性だと実感。
墨烏賊
パツッとした食感の墨烏賊だが、包丁がやや多いか?
烏賊にとろりとした食感と甘みを好む土地柄なのかもしれない。
(江戸前の墨烏賊は歯応えを活かすのが身上なので)
バフン海胆
北海道。時期を考慮すると襟裳あたりでしょうか。
クオリティが高く、海苔、シャリとのバランスも良好。
特に、海苔の香りが余韻として残る点が印象的。
キタムラサキ海胆
笑いながら出されたのは、LA産。殊のほか美味い(笑)
粒子が中々専斎で、濃厚な味わい。
明礬の使用量も何と、少な目。
ボタン海老
昆布で軽く〆ているようで、プチッと弾けた後にトロトロと甘みが横溢する。
控え目に使用した酢橘が甘みの輪郭を際立たせ、大阪で頂くボタン海老も一興也。
蛤
味付けはやや強めだが、山葵で補正している印象。
旨味が強く舌に躍動感があるので、これも何らかの出汁を使用しているのか?と思いきや、ハマツメ(恐らく希釈したもの?)で漬け込んでいるとの事。
穴子
対馬。江戸前流のふんわり柔らかな仕上げだが、香りの立たせ方が西らしい。
瀬戸内の穴子の仕事に慣れてきた身としては、口腔に立ち上がる香りに安らぎを覚える。
干瓢巻き 追加
言わずもがなで山葵を入れられるところが良い。
そして、シャリへの山葵の引き方も美しく、淀みなく指一本で薄緑のラインを引く。
食感や味付けは正しく江戸前の干瓢巻き。
そして、巻物でもシャリがパラッとほどける点が非常に特徴的である。
玉子
擂り身を使用しておらず、じゅわっと柔らかなところが面白い。
ビターネスが良い塩梅だったので伺ったところ、最初にキャラメリゼを行っているそう。
上記、酒肴6品、握り12貫と玉子に巻物1本を追加し、飲んだお酒は生小、開運の純米吟醸、春鹿と龍力の純米。
17,200円と言う価格は内容を考慮すると非常にパフォーマンスが高い。
ご主人の創作意欲とセンスには非凡なるものを感じたので、是非とも再訪して進化を見届けさせて頂きたいと思います。
店名:寿し おおはた
シャリの特徴:4種類の米酢、赤酢をブレンドした完成度の高いシャリ。
予算の目安:15,000円~20,000円
最寄駅:北新地駅から280m
TEL:06-6348-8877
住所:大阪府大阪市北区堂島1-4-8 廣ビル2F
営業時間:18:00~23:00
定休日:水曜
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