
こんにちは、鮨ブロガーのすしログ(@sushilog01)です。
さて、意外にも名店が多い駅、野方。
生活圏以外で降り立つ人は、かなりグルメな方だと思います。
そのような野方でキラリと輝く鮨店に出会いました。
お店の名前は「おたや」。
「鮨」を冠さず「おたや」とはシンプルです。
親方、御旅屋さんの鮨は実直で、鮨をいただいてみるとお人柄が滲んでいると感じました。


ほぼ修行経験なしで鮨店に入ったそうですが、ベースにセンスがあるのは間違いありません。
リーズナブルな路線で食後の満足度が高くないお店は多々ある世の中なので、試みを応援したいと感じました。

タップできる目次

「おたや」さんは、親方である御旅屋 良さんが2023年4月にオープンされました。
異業種から飲食店に入り、ほぼ修行経験なしで伊豆諸島の鮨店で握られたそうです。
しかも最高月商1,300万円以上もの繁盛店であった模様。
そこで3年間働かれ、地元である野方に戻って開業されたそうです(つまりほぼ我流!)。

「おたや」さんの魅力は、ありきたりでない点です。
使用されるタネも仕事も独自のフィルターで選択されていることが分かり、その点において多くの人に自信を持ってオススメできます。
お若い方なので荒削りな部分もありますが、有名店での修行経験なしで今のレベルであれば、確実に今後さらに魅力的な表現が出来る方だと感じました。

生命線のシャリについては、赤酢の旨味が効いていて、酸味がやや強めです。
今のトレンド的には割と珍しい、酸味と旨味の赤酢使いです。
しかしながら、決して行きすぎてはおらず、タネの仕事ゆえだと感じます。
また、砂糖もバランス良く使用されているためでしょう。
ただ、残念に感じた点もあり、それは鮪のクオリティです。
詳細は後述しますが、〆ものと煮ものが徹底されていれば、鮪は出さなくても良いと思います。
一見客に微妙な鮪を出して「この程度か…」とレッテルを貼られてしまうよりも、むしろ出さずに「面白いお店だ」と思ってもらった方が確実に将来のためになりますので。
この点については、鮪のコメントの箇所で説明します。
そして、これは御旅屋親方に限らず、すべての若手職人さんに伝えたいことなのですが、鮨のおまかせコースでは、絶っ体に煮ものも出して欲しいです。
江戸前鮨では生ものではなく、〆ものと煮もので個性を表現するものなので!
「本物の鮨好き」であれば、〆ものと煮ものが無いと満足度が著しく下がってしまう次第です。
これはお店のリピート率にも影響してくるので、是非とも意識していただきたいポイントです。
…とは言え、親方は確かなセンスと個性を持っておられ、コストパフォーマンスは抜群なので、再訪させていただきます。
「おたや」さんのおまかせコースは11,000円と破格です。
しかも握り中心のコース内容なのが鮨好きとしては嬉しいところ。
きっちり10貫出してくれて、追加のタネも用意されています。

また、お酒の提案も魅力的で、これはスタッフの二宮 拓也さんのチョイスとのことです。
聞けば中学校の頃からの同級生とのことで、「おたや」さんには会社を辞めて途中合流されたとのことで胸アツです。
御旅屋親方は途中までワンオペで対応されていたそうですが、「ワンオペだと接客や提供にゆとりが無い時があり、これではお客様から代金をいただく資格が無い」と考えて、スタッフを入れることにされたそうです。
素晴らしい心がけですね。
そして、二宮さんはもともと好きだった日本酒を勉強して、提案の精度を高めているそうです。
良いご提案ですので、お酒が好きな方はおまかせで頼んでみてください。







胡麻餡を掛けていて、菜の花のホロ苦さと香ばしさに胡麻のコクを加えて食欲を刺激する。甘味とキレを合わせ持つお酒のご提案で、バランスが良い。

梅と青海苔と一番出汁を使用。餡ではなく閉じ込めタイプは最近の鮨店では珍しい。茶碗蒸し自体はトロトロで香りが良い。梅の酸でスッキリしつつ、梅干しの塩気も効いているのでアテになる茶碗蒸しだ。

酢を効かせて旨味がほんのりと伸びる〆の仕事。脂が穏やかな鯖に合わせた〆加減である。メジマグロはさっくりと皮が弾けて、香ばしく、脂が甘い。藁炙りと言う仕事も含めて期待を高めてくれる刺身である。

むっちりとした食感がありつつ、柔らかくて旨い。おそらく米油を使用か?もったりしたテクスチャーと輝きを帯びているため、煮るタイミングで油を加えて柔らかく仕上げているように感じる。油を使いつつ良い塩梅に収めていて野暮ッたくない点が良い。そして、旨い。ありそうでない仕事である。

甘みを付けずに茹でて、水ダコ自体の旨味を凝縮させている。香りも良く、ちょっと甲殻類っぽい香りを楽しませてくれる。噛み締めさせる煮の仕事は水ダコに向いている。

余市。甘味を付けつつ、鮟肝のの油脂を活かしてペースト的な魅力を出す仕事。柚子皮とともに。

熟成を掛けて、とろっとさせて、甘味や旨味を引き出したパワフルな一貫目だ。いただいた後に尋ねたところ、やはり熟成で5日とのことであった。

寝かせて柔らかくさせつつ、反発感も楽しませる寝かせの仕事。3日とのこと。

ノドグロなので脂はもちろんノリノリなのだが、炙ってから寝かせる低温の仕事は良い。この仕事で、親方が鮨を意識的に食べて研究されていることが分かる。

むっちりした凝縮感がある春子。シャリの旨味と相まって味わいが強く、存在感のある仕事だ。

塩で脱水して脂をダイレクトに楽しませる仕事。香りや小骨などネガティブな要素はゼロ。強い味わいなので、当たり葱とバランスが良い。薬味使いでもセンスが分かる。

肉厚なものを軽く火入れして魅力を高めている。炙ってから軽い漬けか?甘味が強く、食感も楽しませてながら臭みは無い。

沖縄にして珍しい糸もずく!食感が強くて魅力的だ。酸味と甘味がやや強めだったので、構成的にそれらを落として出汁ベースの飲める塩梅にすると更に良いと感じた。

富山県産の生を仕入れて焼いていると思われる。甘味と香ばしさが実に良い。

さっぱりな酸味。これは率直に申し上げて、味が無い鮪であった。鮪はクオリティが表れやすいタネなので、クオリティが低い場合には出さない方が得策だと思う。初めてのお客さんから鮪で「価格相応か…」と思われてしまうと、せっかくの他のタネの仕事が勿体ない。鮪を出さずとも仕事系のタネで魅せれば鮨店は映えるものなので、リーズナブルな価格帯のお店の鮨職人は英断をされても良いと個人的に思う。鮪が無いことでお店を否定する人は、生粋の鮨ッ食いではないので。また、味が薄い赤身の場合には、湯霜漬けなどの仕事を行った方が良いのは間違いない。職人さんは自信のあるタネのみでスタメンを組めば良いと確信する。

酸味に上品な脂が滲む。

超クラシックな塩気、酸味、脱水を感じさせる〆の仕事だ。しかしながら香りと旨味が確かに込み上げてくる点にセンスを感じる。古典そのままだと古典への本質的な敬意とはならず、古典は現代においてアレンジして初めて温故知新が成就する。

ぱっと見は軟派ながら良いバランスだ。冷たい白子と温かいシャリ、香り良い海苔のバランスが楽しい。加温せずに楽しませるとは、良く考えられている。

甘味を効かせつつ美味い玉子焼き。

殻の状態から生で剥く。香りも旨味の決め細かい粒子も抜群で、昆布様の香りと旨味に魅了される。これは追加して良かった。

北海道の鰊をバシッと〆て、これは攻めている。東京らしい仕事で魅せる!香りと旨味がジワジワと高まるのは〆の仕事の妙味だ。立て塩で90分ほどなので塩〆の段階では強い脱水はされておらず、酢〆してから長く置く点で身の凝縮を促しているようだ。

甘味を効かせて食感はコリコリ。

なめこ入りの赤出汁。
「おたや」さんは、下記の食べログのリンクからWEB予約が可能です。
店名:おたや
予算の目安:おまかせ11,000円
TEL:03-5356-7316
住所:東京都中野区野方5-3-1 野方ウィズ2F
最寄駅:野方駅から150m
営業時間:12:00~14:00(L.O.13:30)、17:00~22:00(L.O.21:45)
定休日:水曜
意識の高い仕事でリーズナブルな価格設定をする職人さんを応援したい、すしログ(@sushilog01)でした。
本記事のリンクには広告がふくまれています。