すしログ日本料理編 No. 64 山さき@神楽坂

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今や頂けるお店が少なくなってしまった江戸料理。

江戸料理が少なくなってしまった理由は、ひとえに東京で京料理の方が人気を博した事によるかと思いますが、料理人の高齢化により仕事が伝承されなくなってしまった点も一因かと思います。

現在、江戸料理は天麩羅、鰻、どぜうなどの専門領域に限定されており、総体(先付や腕、煮ものを含む本膳)としての江戸料理を頂けるお店は稀有ですので、個人的には徐々に復古をされる事を願っている次第です。

若い料理人の方に、古い江戸料理の仕事も組み込む方が出てくると面白い。

 

ちなみに、上記、江戸料理と京料理の相互作用の逆パターンとしては、江戸前鮨と蕎麦を挙げられるのではないかと思います。

特に江戸前鮨=握り鮨は全国を席巻しており、郷土寿司に様々な影響を与えた事は明白です。

 

前置きが長くなってしまいましたが、こちらは代表的な江戸料理である【ねぎま鍋】を頂けるお店。

閉店してしまった老舗の名店で修業された女性料理人のお店です。

 

「ねぎま」と聞くと、焼鳥が頭に浮かぶ方も多いかもしれません。

しかし、江戸料理の「ねぎま」とは葱と鮪。

これらを江戸ならではの鰹節と濃口醤油で作った鍋が、【ねぎま鍋(葱鮪鍋)】となります。

 

【ねぎま鍋】は、天保年間(1830~1844年)に鮪を食べるようになった事で生まれました。

ご存知の方も多いと思いますが、当時、鮪は醤油に漬けて保存する保存食でしたので、醤油が浸透せず劣化し易いトロ(脂身)は捨てられておりました。

そこで、トロを活かす為に、庶民によって編み出されたのが【ねぎま鍋】。

濃口醤油、酒、味醂、出汁で作った割下で葱と鮪のトロを煮込み、双方の魅力を高め合う鍋料理として人気を博したそうです。

つまり、元々は庶民の大衆料理だったわけです。

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お店は神楽坂のメインストリートから脇に入った場所にあり、一見すると神楽坂らしいひっそりとした雰囲気。

しかし、意外な事に看板が無く、ビルの入り口に案内が。

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上に上がるとお店が現れ、かなり意外性のある(隠れ家感と言っても良い)立地です。

お客さんは上品な方が多く、落ち着いて頂く事が出来るのが嬉しいです。

 

さて、こちらの【ねぎま鍋】を頂いた感想としては、当初の期待以上の味わいであり、唯一無二の魅力があると感じました。

そのように感じる要因としては、ひとえに出汁。

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秀逸な出汁が張られており、鮪や野菜を活かします。

詳細は後述しますが、醤油の塩梅も見事。

また、ごッた煮にせず、鮪を部位ごとに4回供され、それぞれ異なるツマと合わせる構成も大変魅力的です。

割下、提供方法によって、端正かつ上品な味わいに昇華されております。

日本酒は豊盃純吟、高清水純米、秘蔵初孫大吟醸を頂きました。

まずは鍋の前に先付とお造りが供されます。

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先付
1月の上旬と言う事で、お節風の料理たち。

お節は土地柄が出るので、元旦後であっても頂くと面白いもの。

菜の花と数の子の和えもの、黒豆、伊達巻、昆布巻、田作り。

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菜の花の和えものは、菜の花の苦味と強めの味付けの数の子が良い塩梅。

黒豆はじっくりと炊かれており、皮はサラリと消えるよう。

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なますは酢の酸味が強めで、キリッとしている。

伊達巻きはこっくりと深い味わい。

田作りはバリバリ、カリカリで、強めの甘みが肝の苦味と合う。

昆布はとろとろで味しっかり。

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お造り

鯛と小柱。調味料は、煎り酒。

煎り酒とは、江戸時代に醤油の代わりに用いられた調味料で、煮切った日本酒で梅干しを煮たもの。

日本酒には貝類と同じコハク酸やグルタミン酸が含まれており、そこに梅干しのクエン酸が混ざる事で奥深い味わいとなる。

こちらの煎り酒は醤油も加えている点が現代的であるが、反面、お酒の発酵感が強く感じられ、

酸味が程良く、かすかな甘みがある点が特徴的だ。

恐らく使用しているお酒の熟成期間が長いのだろう。

煎り酒としても、結構オリジナリティが高い。

煎り酒は白身魚の甘みを活かし、貝のクセを流すので、見直されるべき調味料だと感じております。

 

そして、待望の【ねぎま鍋】。

読者の皆様も、お待たせしました(笑)

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まず、大皿に所狭しと身を寄せ合う、大ぶりの鮪に大興奮!

色艶が素晴らしく、付け合せの野菜も瑞々しい。

また、薬味が山椒や七味ではなく、黒胡椒である点も面白い。

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頂いてみると、辛味は強くなく、鮪を邪魔しない風味だった。

 

こちらのねぎま鍋は、クレソン、若芽、セリ、ウドの順に、ツマを変えながら4回頂く。

割下は非常にキレのある風味で、鰹がバシバシッと走る。

スモーキーなまでに本枯節が利いている。

そして、醤油の塩梅が絶妙で、甘みは低い。

元来、江戸の鍋は甘みが強いものが多いので、これは予想外であり、非常に喜ばしい発見だった。

濃口醤油を用いつつ、端正な味わいを宿した割下である。

このように、元々秀逸な出汁であるが、鮪から滲む旨味を深めながら、野菜をコーティングして鍋の具材と言うよりも寧ろ料理へと変えていく。

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まずは、クレソンとともに

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鮪はトロで、口に入れた途端に消え去る。

そして、繊維から横溢する脂にうっとり。

旨味だけでなく香りが立っており、酸味もある。

クレソンの爽やかな青い風味とともに初手から心を奪われる。

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若芽とともに

磯の豊潤な香りが立ち上がる。

そして、今度の鮪は甘みが強い。

鮪の部位でストーリーを紡ぐと言うのは面白い。

そして、葱は主張し過ぎず鮪に寄り添い、甘みを優しく伝える。

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セリとともに

やはりセリの野趣は鍋に映える!

一番脂の強いトロを合わせており、相互に魅力を高め合う。

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このあたりで、鰹のキレに鮪のまろやかさが加わり、ツユの美味しさが格段に上がる。

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ウドとともに

ささがきにしているため、青臭すぎず、春の香りを楽しませてくれる。

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今回の鮪は赤身であり、鰹節のスモーキーフレイバーを纏い、

高度な一体感を示している。

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汁かけご飯

雑炊ではなく、汁かけご飯と言うのが素晴らしい。

もちろん雑炊も料理によっては美味しいが、出汁が端正な鍋の場合、汁かけご飯や麺類の方が、鍋の真髄を楽しむ事が出来ると感じる。

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鮪の脂から溶け出たゼラチン質の濃度が高まっており、サッパリとしたご飯ながらに、深い味わいがある。

食後の満足度が高いご飯だ。

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水菓子

苺の酸味と小豆の甘みが良いバランス。

白玉は小さくもモチモチ。

 

お酒1人1.5合換算で、サービス料込13,000円ほど。

内容を考慮すると満足度は非常に高く、中々頂けないレヴェルの鍋料理である事は間違い無いです。

雰囲気はざっくばらんだし、料理の品数は少ないので、高級志向の方には響かない部分もあるでしょう。

しかし、料理を愛する方は、必ず満足出来るお店だと思います。 

 

店名:山さき(やまさき)

食べるべき逸品:ねぎま鍋を中心とした、江戸の鍋料理。

予算の目安:10,000円~

最寄駅:牛込神楽坂駅から270m、飯田橋駅から300m、神楽坂駅から450m

TEL:03-3267-2310

住所:東京都新宿区神楽坂4-2 福井ビル201

営業時間:18:00~22:00

定休日:日曜、祝日

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