こちらは前々から気になっていた日本料理店です。
世間一般の人気や知名度とは裏腹に玄人筋の評判が良く、料理写真を見ても期待を持てるため、銀座の中でも特に楽しみにしておりました。
ご主人は女性で、自ら釣りもされる方。
今回は常連さんで大混雑だったのであまりお話し出来ませんでしたが、料理を頂き、是非ともじっくりお話を伺いたいと感じました。
個人的に琴線に触れた美点としては、1. 素材を殺さずに冒険出来る方である点、2. 魚の旨味と香りを正確に把握されている(と思われる)点、の2点で、調味料使いの巧みさも強みだと感じました。
また、驚くべきは銀座の一等地にあって日本酒の持込みがフリーであるところ。
僕は「お酒の価格は良心の価格」と言う哲学を持っておりますが、完全フリーとは凄すぎです。
コースは12,000円、16,000円の2本立てで、素材のクオリティが変わる模様。
上記の通りお酒の持込み量が掛からない事もあり、16,000円のコースを頂きました。
押しなべて満足度が高いです。
ただ、一つだけ結構気になった点を挙げると、隣席との距離がほぼゼロ距離なので、隣の方次第では落ち着いて頂けないと言うところです。
僕の隣の方は足をドンドンと打ち鳴らすお行儀の悪い年配男性だったので、正直なところキツかった…。
アットホームな雰囲気のあるお店なので、もう少し寛いで頂けると良いなぁと感じます。
頂いた料理は下記の通りです。
香箱蟹(セイコガニ)
11~12月の定番、香箱蟹。
基本的にオーソドックスな調理で供されるお店が圧倒的多数だが、こちらは独創性の高い手法で提供される。
外子、内子、蟹味噌を混ぜ合わせた上で土佐酢で調味している模様。
旨味がしっかりしている。
そして、身(繊維質)の方は力強い食感を保っており、全て一気に食べると甘み、旨味、香り、食感、酸味が一体化し、非常に印象深い。
当初は強い味に感じたが、調和しているため完成度が高い。
ボタンエビ
いちじくと合わせている点が面白く、ボタンエビは一日寝かせたもの。
更に、軽く火を入れた上で海老味噌と合えている。
頂いて、素材の旨味を引き出すのが実に巧みだと実感する。
過度にいじる事無く、他の料理人では出せない味に仕上げている。
そのセンスは、後にお造りを頂いて痛感する。
椀もの
椀種は白皮(白甘鯛)の真薯。
吸い地に関しては、昆布が強めだが、嫌みは無く、塩気は穏やか。
実に完成度の高い出汁なのでお伺いしたところ、真昆布を5分煮出し、極わずかな量の鰹も用いているとの事。
結構パンチのある旨味だったので利尻昆布かと思ったが、真昆布を5分とは少々驚く。
真薯は山芋をとろり、ねっとりと用いつつ、白甘鯛の旨味がバシッと活きている。
お造り
明石のマゴチ。絶品!!
1.5日ほど寝かせ、圧倒的な旨味としっかりした食感を両立させている。
鮨店も含めて、「寝かせる」仕事ではクリーンヒットだった。
また、澤屋まつもとの料理酒を用いた煎り酒の完成度も抜群。
面白い事に、梅干しは丸のまま煮詰めている。
旨味と酸味がマゴチの旨味を引き立て、深い余韻を満喫させてくれた。
牡蠣と豆腐の炊合せ
出汁は野菜、牡蠣の産地は岩手県の広田湾。
今まで頂いてきて、広田湾の牡蠣は香りがしっかりしている印象。
結構雄々しい磯の香りがある。
野菜出汁は甘みが柔らかで、牡蠣の旨味も滲み、穏やかながらに旨い。
塩鰯のサンドイッチ
これまた意外な一品。
鰯には塩だけでなく酢も軽く当てており、ガリがパンと接続する。
トルコ料理の鯖サンドなども青魚とパンの相性の良さを感じさせてくれる料理だが、意外とクセになる味わいだ。
鰆の焼きもの
鰆は明石、揚げ牛蒡、長芋の旨煮添え。
鰆は中心部をしっとり仕上げ、旨味を引き出す火入れ。
鰆の酸味も軽やかに混ざる。
しかし、個人的に印象深かったのは、長芋の旨煮。
鰹出汁の旨味がしっかりと浸透しており、内心「激ウマ!」と感じた。
ちなみに手前のソースは蓼。
鮎茶漬け
ご主人がご友人だと言う、岐阜の川原町泉屋さんのものとの事。
ちょうど夏に伺い、いたく感銘を受けたお店なので、ビックリ。
鮎魚醤で作った鮎の風味が濃縮された佳き酒肴。
この後、まさかの握りに移行です(笑)
鮨は男性の職人さんが握ります。
シャリは硬めの仕上げで、酸味、塩気ともに穏やか。
優しい味わいの中にほのかな甘みがあり、〆に良いシャリだと感じる。
聞くところによると、米酢に優選(酒粕酢)をブレンドし、極僅かな砂糖を用いているそう。
日本料理主体のお店で握りとなると、少し不安を覚えるものの、それは杞憂に終わる事となった。
圧倒的な一体感!と言う訳ではないものの、研究された良い握りだと思う。
何よりも、生命線であるシャリのほどけ加減が良かった。
タネの構成も江戸前の王道を行くもので、これは遊び心のある料理部分との対比があって好印象。
鮪赤身
鮪中トロ
産地は大間。仲卸はフジタ水産。
赤身は酸味が強く、ねっとりした旨味はやや弱め。
今年はスルメイカが大変な不漁だと聞く。
よって、極上の鮪も少なくなっている。
白烏賊
片面に細かく包丁を入れて歯切れを向上させている。
個人的に鮨における烏賊は、職人さんの包丁の腕を見るタネだと考える。
墨烏賊が最もシャリとの相性が良いが、他の烏賊は特に包丁が問われる。
小鰭
割としっかりと〆て、香りを強く感じさせる仕事。
シャリの甘みと小鰭の酸味が中々良い協奏を示す。
胡麻鯖
小鰭の〆加減とは裏腹に、浅く、柔らかな〆。
甘くトロトロとほどけ、最後に酸味がふわりと漂う。
旨味の引き立て方が巧いので、真鯖に比べても引けを取らない旨さ。
穴子
産地は冬季定番の対馬。
ここ数年でとても定着した感がある。
こちらはふんわり、トロッと仕上げており、煮ツメは穴子の旨味を有する結構濃厚なもの。
個人的に穴子よりも煮ツメが印象に残った。
蕎麦
ボタンエビ、クリタケの出汁の冷や蕎麦。
麺は細く、やや平たい断面で、モチモチした食感。
旨味もしっかりある。
干瓢巻き
明石の極上献上海苔を使用しているとの事。
皇室献上海苔と言えば、矢本大曲浜(東松島)は知っていたが、明石のものは初めて頂いた。
確かに旨い海苔だが、写真を見ての通りシャリのバランスがよろしくない。
みっちりと巻きつつ、空気を含ませる事が望ましい。
玉子
これは白眉。
食通の同行者二人も感嘆を覚える程。
卵黄だけを凍らせ、砂糖と蜂蜜を用い、海老や芋は混ぜずに作ったという玉子。
食感はねっちりとしつつ、トロトロととろける。
あたかもクレームブリュレ。
卵自体の甘みが活きているが、使用している卵は「普通の卵」との事であった。
ひとえに仕事に対して称賛する。
冒頭の通り、もう少し肩の力を抜ける間取りだと大変嬉しいですが、仕事は個性的で、引き出しも豊富だと確信したため、是非とも再訪したいと感じました。
店名:智映(ちえい)
食べるべき逸品:旨味を引き出された絶品魚料理と、料理と好対照な江戸前の握り。
予算の目安:12,000円〜
最寄駅:銀座駅から300m
TEL:03-3573-7022
住所:東京都中央区銀座7-7-19 ニューセンタービルB1F
営業時間:17:00~21:30
定休日:土曜、日曜、祝日
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残念ながら、12月7日に店主の智映さんは亡くなられました。
ゆきこ様
ご返信が遅くなり申し訳ございません。
ご連絡を頂いた後にショックを覚えつつ、お母様のお手紙を拝見して、更に悲しさがつのります。
ご連絡頂きまして、誠にありがとうございます。