すしログ No. 123 小笹寿し@下北沢

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こちら小笹寿しは多くの鮨通に長年愛されているお店です。

「名人」と謳われた岡田周三氏の後を継ぎ、現在は西川勉氏が暖簾を守っておられます。

こちらは元々は戦後に創業された「銀座小笹寿し」の流れを汲んでおり、伝統的な江戸前仕事を楽しむ事が出来ます。

その仕事は、岡田氏の頃から通っている方々をして、「全く風化していない」と評されております。

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こちらは予約を受け付けておらず、「お任せ」は無く「お好み」のみ。

これこそ正に在るべき姿の鮨店だと感じます。

「お任せ」と言うシステムは確かにお店側のロスを防ぐ事が出来て、親方の描くストーリーを余すところ無く楽しむ事が出来る反面、

鮨を食す側の楽しみや職人の成長を奪いかねない両刃の剣。

全て食すに値しない(ストーリー性が弱い)職人の「お任せ」がまかり通ったり、人気に乗じて価格を釣り上げるお店も少なくない。

「お任せ」の弊害について分かり易く言うと、味の濃いタネを連発した後に淡い味のタネを立て続けに出したり(逆も真なり)、鮪がそんなに上質でないのに赤身、中トロ、大トロと出して高額を付けたり。

お好みであれば自分の好きな順に頼んでストーリーを構成したり、赤身を頂いて「鮪は弱いので他にしよう」と方向修正出来ます。

「お任せ」が当たり前となり、鮨店で食べ手が機械的に「お任せ」を頼む風潮には辟易する次第です。

酒に流れ「お任せ」に迎合するは極めて安易。

 

閑話休題。

鮨店のシステムの話ばかりになってしまいましたが、こちらで頂ける鮨は費用対満足度が実に高い。

次代に流されず、通人に愛されてきたためであると感じます。

このようなお店に出会えるのは、鮨好きとしては無二の感動を覚える。

 

シャリは米酢の酸味が軽く立ち、粘度もあり、温度は少し低め。

当世流行りのシャリとは全く異なるものの、ほどけ加減とタネとの調和は実に良い。

その理由は明白。

握りの腕によってシャリに精彩を与えている。

握りの所作は淀み無く、手数少なく、左手の親指を強く利かす。

シャリは「扇の地紙型」に形成され、大ぶりなタネをも悠々と背負う。

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鮃(ヒラメ)

生で肉厚な切り付けなのに、旨味、甘みが濃厚。

 

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これも肉厚でびっくりしたが、香りと甘みが極めて強く、

噛みしめるごとに旨味がシャリと調和する。

鯛は皮の扱い方にお店の実力を如実に表す。

そして、白身魚は熟成に傾倒し過ぎず食感を活かして頂きたいもの。

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縞鯵

こちらも皮下の甘みと香りを活かした切り付け。

白身魚を頂き感じましたが、ご主人の包丁は豪胆に見えて繊細です。 

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墨烏賊

時期にしては比較的穏やかな反発(食感)。 

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聞く所によると、葱と生姜を叩いた付け合せは岡田周三氏が考案したもの。

今でこそ一般的になっておりますが、鯵との相性は抜群です。

そして、相性以上にこちらの配合は素晴らしい。

葱の爽やかな香りが走り、生姜がキリッと引き締める。

香りと脂の強い光物の魅力が向上する。 

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若手のお店と比較するとやや強めの〆加減。

鯖の脂の旨味を凝縮しており、印象深い。

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赤貝

ピンではないですが中々。 

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煮烏賊、鮑、蛤を頼んだところ、なんと三種盛りに!笑

煮烏賊は硬過ぎず柔らか過ぎず個性を感じさせる火入れ。

煮烏賊だけでなく、蛤の火入れも絶妙で微かな柚子皮が嫌味なく合う。

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穴子
こちらの酒肴のスペシャリテに【雉焼き】というものがあり、じっくりと火を入れて提供されるそうですが、握りの穴子は煮たもの。

【雉焼き】と比べると軽い炙り加減のようですが、煮穴子としては比較的しっかりと焼かれており、山椒が掛かっているところが個性的。

西の人間としては穴子の焼き加減は中々魅力的でしたが、煮ツメの「しょっぱさ」が少々気になりました。

煮ツメの根幹とも言えるコクを醤油の塩梅がやや凌駕。

量が多いのが要因ですが、下味だけでも十分美味しいように感じます。

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針魚

生に非常に近い針魚。

冷蔵庫の温度なのが気になりました。 

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小鰭

塩よりは酢を立たせ、柔らかに仕上げており、鯖よりも軽めの〆加減。

長年受け継がれてきた重みを感じさせる仕事です。 

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鮪赤身 

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車海老

老舗にしては珍しく茹で上げ。

非常に肉厚な為か強めに火を入れております。

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海老の頭炙り

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干瓢巻き

甘みがあり、醤油もしっかり利かせた干瓢。

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玉子
じっくり焼かれた玉子で、三回に分けて焼いているところが特徴。

砂糖と味醂を用い、懐かしい甘みの玉子です。 

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忘れてはならないのが、こちらの潮汁。

訪問時は縞鯵を使用されており、濃厚な旨味と適切な塩分が印象に深く残る。

 

以上、15貫に巻物1本、玉子、椀、日本酒1合を頂いて約12,000円。

いやはや、圧巻のコストパフォーマンスです。

ストイックな空気が流れているお店ですが、緊張感を心地良いと感じられる鮨好きにとっては、鮨に向き合える素晴らしい鮨店なのではないかと思います。

通な方に愛されている理由を身を以て感じた次第です。

 

店名:小笹寿し

シャリの特徴:米酢のみでオーソドックス。酸味を立たせ、ほのかな甘みがある。

予算の目安:10,000円~15,000円

最寄駅:下北沢駅から650m

TEL:03-3413-0488

住所:東京都世田谷区代沢3-7-10

営業時間:月〜土17:00~21:00、日祝日12:00~ ※何れにせよタネ切れまで

定休日:水曜

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