こんにちは、食べログ低スコア店が好物の鮨ブロガー、すしログ(@sushilog01)です。
鮨の食べ歩きをしていると、心から驚かされ、興奮を抱く刻(とき)があります。
単純に「美味しかった!」というだけでなく、まだ一般的に知られていない鮨店を開拓した時は、お店を出て数時間は興奮が止みません。
札幌で開拓して興奮したお店は、「鮨しののめ」さんや、前回の記事に書いた「鮨いその」さんなど。
そして、今回の「鮨たな華」さんには、本当に心から驚きました。
記事執筆時点で食べログのスコアは3.07で、レビューは4件のみで2018年以降書かれていません。
すしログ
なにせ、北海道産の一級品しか使わない上に、握りだけで勝負する親方なのです。
頂いている時のテンションの上がりっぷり、頂いた後の興奮が凄かった。
料理としての完成度が高い鮨なので、鮨好きはもちろん、あらゆる方にオススメします。
拙ブログを閲覧頂いているミシュラン調査員の方も、是非とも訪問してみてください!
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鮨たな華の立地と雰囲気
北海道随一の繁華街であるすすきのの喧騒から離れた好立地にあります。
世間一般の「好立地」とは繁華街の中心なのかもしれませんが、個人的にはアクセスし易いのに静かなエリアが好立地だと思います。
喧騒から離れた場所でありながらアクセスは至便なので、お店を出た後に満足感と幸福感を静謐の中で楽しめるのは贅沢なひと時だと言えるでしょう。
お店はビルの1階に入っていて、ガラス戸の先にあるインターフォンを押して入店します。
完全予約制のお店でインターフォンだと、初めての訪問の際には少しためらうかもしれませんが、看板が掲示されているので迷う事は無いと思います。
店内は誰もの予想を裏切る広い空間です。
玄関で靴を脱いで、カウンターに腰をおろします。
席のゆとりはバッチリで、清潔感も申し分無し。
空気が心地良く、親方と女将さんの接客もフレンドリーで魅力的です。
なお、部屋の端にスタインウェイ製のグランドピアノがあり、親方が弾くのか!?と思ったものの、イベント時にピアニストを呼んで演奏してもらうとの談でした。
鮨たな華の親方・田中康智さんについて
親方の名は、田中康智(たなかやすとも)さん。
1986年生まれで、16歳で鮨の世界に入った叩き上げの鮨職人です。
記事執筆時点で18年のキャリアを持つお若い職人さんですが、おごったところは全く無く非常に謙虚で、しかも鮨愛がほとばしる好漢です。
修業は札幌市内の鮨店だったそうですが、途中東京でも修行された模様。
そして、15年の修業を経て独立され、2017年5月に「鮨 たな華」をオープンされました。
鮨たな華のおまかせコースの概要
若手の職人さんですが、価格設定と提供方法は強気です(笑)
コースは【おまかせ】22,000円のみ!
しかも、最近、握りだけで構成する【おまかせ】にされたそうです。
攻め抜いています。
訪問前は如何せん情報が少ないので、失礼ながら失敗しないか不安でした。
しかし、結果的には良い意味で大きく裏切られる事になりました。
同じ価格帯であっても、東京の鮨バブルで量産されているお店とは別次元です。
しかし、お値段を出した上で特筆したいのが、田中親方の食材や調味料へのスタンス。
田中親方は謙虚で控えめな方ですが、使用する食材については細部への配慮(こだわり)が抜きんでていて、一品一品のクオリティが圧巻です。
例えば、お米は一般販売されていないお米を使用されていて、煮キリは5種類を用意。
使用する醤油は糸島のミツル醤油。
そして、使用するタネは、ご自身の眼と舌で選び抜かれた一級品。
仲卸に言われるがままに皆と同じ産地のタネを揃える職人さんとは趣を異にします。
お話を伺い、「自分が食べたいと思う食材以外、絶対に仕入れない」とのお言葉は心に染みました。
実際に頂くことで、食材を仕入れる時から「この食材を自分ならどう活かせるか」「お客さんに喜んでもらおう」と考えておられるのが、伝わってきました。
残念なことに、食好きならご存知の通り、地方の一級品の多くは地元に流れません。
世間では「〇〇ならば産地の△△に行けば美味しいはず!」(例えば「大間の鮪を食べに大間に行こう」など)と思われますが、現実はそうではなく、美味しい一級品はほぼ全て東京(豊洲市場)に流れてしまいます。
これは各地の職人が頭を悩ませるところで、良い食材を仕入れるための選択肢は2つ。
豊洲市場から「買い戻す」か、生産者と直接取引するか、になります。
田中親方は多くの食材を漁師から直接仕入れる事で、東京の一流店を超えるタネを揃えておられます。
タネの大半を豊洲(旧・築地)から「買い戻す」鮨店で、感心した事は殆どありません。
今後も田中親方の独自の仕入れが楽しみです。
鮨たな華のシャリについて
田中親方はお酢をブレンドせずにシャリを切っています。
これにはビックリされる読者の方も多いでしょう。
酢飯におけるお酢のブレンドは「定石」であり、自身もブレンドで更に美味しくなる事を調理実験によって確認しました。

しかし、田中親方は敢えてブレンドされません。
「美味しく丹念に作られたお酢ならば、その魅力をシンプルに引き出したい」と言う想いがあります。
結果的に選んだお酢は【ヨコ井(横井醸造)の與兵衛(よへえ)】。
これは言わずと知れたヨコ井の看板商品で、低置発酵・長期熟成させた赤酢の傑作。
ただ、旨味・酸味・香り・色の全てが強いので、個人的に「劇薬」と呼んでいる赤酢です。
つまり、一番有名な赤酢なのに、使いこなすにはセンスが求められる危険なお酢なのです。
なので、同じヨコ井の赤酢である金将(きんしょう)や珠玉(しゅぎょく)をブレンドしたり、他のメーカーの米酢をブレンドしたりする事が一般的です。
それにも関わらず!
田中親方は砂糖さえ用いず、お米、塩、酢でシャリを切り、巧くまとめる事に成功しています。
これは、鮨好きであれば奇跡と思う程のシャリ切り(酢飯作り)の腕前です。
そして、新たな試みとして、2020年6月より米酢のシャリも併用される選択をされました。
その選択の背景にあるのが【飯尾醸造の富士酢プレミアム】との出会いでした。
飯尾醸造のお酢は本当に美味しく、僕も飲み比べをして驚いたものです。

最近だと、飯尾醸造の【富士酢プレミアム】【純米富士酢】【赤酢プレミアム】を3種ブレンドする鮨職人さんが増えています。
【赤酢プレミアム】は流通が限定されている名酢ではありますが、【富士酢プレミアム】1種類で美味しく仕上げる職人さんは凄いな…と感じました。
シャリの味わいとしては酢のそれぞれの個性を引き出しつつ、味覚を合わせています。
硬めに炊き上げていて、お米の粘度は弱めです。
粒は大きめでありながら粘度が弱く、甘みが強いお米。
北海道のお米や、つや姫、ササニシキとは異なる味わいだったので品種を尋ねてみたところ、コシヒカリとの事でした。
新潟県糸魚川の農家と直接契約をされているそうで、一般流通してしないお米だそうです。
その心を伺ったところ、味わいに加えて、粒が均一である点を挙げられました。
ご自身が鮨を食べる時、「粒が不均一だと美味しくない」と感じるため、なるべく粒が揃ったお米を求めて行きついたそうです。
田中親方の仕事について
前述の通り【おまかせ】は基本的に握りのみで構成されます。
昔の写真を見ると酒肴も出されていますが、個人的に握りのみの方が田中親方らしいと感じました。
僕が握り原理主義者である事を置いておいても、田中親方は握りに専念された方が世界観を巧く表現出来るのではないか?と思いますし、酒肴代わりのような大阪鮓を織り交ぜる工夫などは他店には無い魅力だと感じました。
郷土寿司のエッセンスを親方のセンスで解釈し、酒肴的におまかせに採り入れるポテンシャルは大きいのではないでしょうか?
なお、鮨バブル下では以下のような弊害があり、それは鮨の本質から外れている現状です。
- 他店と同じ産地の食材を多用する
- 脂が多い魚介を多用する
- 鮪と海胆に原価を掛け過ぎる
- 西洋の高級食材(キャヴィアやトリュフなど)を合わせる
- 提供方法などにエンタメ要素を盛り込む
- 会員制・紹介制などを採り入れる
田中親方は親方らしい握りのおまかせを生み出してくださる事でしょう。
既に親方らしい仕事が生み出されていて、特に【脱水氷感熟成のバフン海胆】【鯖の押し寿司】【鱒の介(マスノスケ)】は驚嘆するレヴェルでした。
詳細は後ほど書きますが、個々の仕事が堂に入っていて、時間と労力をかけて試行錯誤された事が明白です。
作品に触れた時、模倣ではなく堂々たる個性を感じさせ、同時に作品の背後に流れる時間を想わせられるのは、芸術も料理も同じ。
田中親方の仕事は今後も末永く楽しませて頂きたいと感じました。
鮨たな華さんのおまかせコースの詳細
2020年12月訪問
頂く前に蜂蜜が登場します。
これにはビックリしましたが、握りのみのコースなので血糖値を急に上げないためのご配慮でした。
ハンガリー産のアカシア蜂蜜で、GI値が一般的な国産蜂蜜の半分との事!
粋な計らいですね。
ガリ
甘みが強めで、食感はシャキシャキ。
シャリに砂糖を用いていないので、バランスを取っている事が分かるガリ。
最後まで頂き、鮨處やまだの山田親方のようにガリを出さなくても成り立つ内容だと感じた。
ガリを求める声もあるかもしれないが、無くても成立させられる職人さんもいると昨今思う次第。
星鰈
函館産。バツッ!と力強い弾力を示し、旨味が強い。
寝かせている事は明白だが、なんと骨付きで2週間熟成させた3kgアップの星鰈であった。
熟成期間に対して食感は意外な程に強く、これは親方の熟成のセンスを感じさせる。
白身魚を熟成させて食感と香りを失わせてしまう職人ならば、熟成に手を出さない方が良い。
さらに着目すべき点は繊維質のほどけ方。
強い食感の後にふつふつとほどけていき、力強さの後に繊細さを感じさせる。
また、熟成により旨味が引き出されていて、それが酢の甘みを実感させる(流石、富士酢プレミアム)。
名刺代わりの1貫目、個性を生み出しにくい白身魚で強烈な個性を見せられた。
キンキ
網走産の釣りもの。脂が非常に強い…が、上品な印象を与える。
脂の質がクドくなく、ぷりっとした身がホロホロとほどけるのと同時に、脂を楽しませながら決して同じ場所に留まらずに去り行く。
香箱蟹(勢子蟹)
淡路産。「握り」ではないが、酢飯と合わせて酒肴的に提供する。
香箱蟹と米酢のシャリの香り、旨味、甘みのバランスが良い。
鮪の脳天
大間産、延縄161キロ。
仲卸はやま幸で、仕入れ値にこだわらず入れ続けているそう。
その甲斐あって力強い美味しさを、鮪の旬の時期に楽しませてくれる。
手巻きの鉄火巻きを前半で出すのはイレギュラーだが、その理由は「鮨屋の華だからこそ冒頭で出したい」ため。
海苔も美味しく、丸山海苔の「初代彦兵衛こんとび」との事。
鮪赤身
もっちりした身で、香りと酸味がしっかり目。
味わいは淡白だが、血の余韻が良い。
鮪中トロ
腹中の中トロ。脂は強く、軽やかな酸味が味を支える。
ヨコ井の與兵衛との相性はバッチリだ。
鮪大トロ
脂は穏やかながら香りがある大トロ。
旬の時期の鮪3連発はすきやばし次郎の系譜の必殺技だが、北海道で楽しませて頂けるとは。
鯖の押し寿司
噴火湾産の鯖を大阪流の押し寿司器で押し、少し寝かせてから提供する。
これは素晴らしい!
味も申し分ないが、試みに惚れ惚れする。
大阪では急速に衰退している大阪鮓の文化だが、他の土地で技術が使われ、新たな文化となるのはご当地前の江戸前鮨と全く同じ事。
鯖は塩と酢のみならず昆布で〆ており、鯖の魅力と仕事の精度を体感させる押し寿司!
文化的貢献度が極めて高い事をお伝えしたところ、親方は通年で押し寿司を出されていて、季節でタネを変えているそうであった。
ボタンエビ
礼文島産。濃密な食感で、非常に良いクオリティのボタンエビ。
漁師から直接入れておられ、ボタンエビの濃密な甘みが主人公で、火入れした海老味噌の甘みと香りを調味料的に、卵の食感をアクセントに用いる。
真鱈の白子
根室産。昆布を敷いて炙る仕事。
一体感が抜群で、海苔ならびに飯尾醸造プレミアムの塩梅が良い。
鱒の介(マスノスケ)
根室産。香りと旨味が非常に素晴らしい。
軽い漬けによって個性を引き出している。
国産のキングサーモンだからと言って脂の強さのみに注目するのは、食べ方が浅い。
マスノスケの真骨頂は香りにありと考える。
漬けで味付けを行いながら香りを殺さず、むしろ引き出している点に仕事の妙を実感する。
いくら
根室産。バッチリ美味しいが、個性的な仕事が多い職人さんなので、変化球を求めてしまうのは我儘か?
海胆
親方いわく「脱水氷感熟成」。
これには心から驚いた。
久々に海胆で感動を覚える味わいで、高級な箱海胆では体感出来ない感動!
仕事は、浜中の海胆を殻から剥いた後に脱水させて熟成すること、なんと10日!!
海胆は超絶濃密な甘みで、香りも抜群に良い。
海胆でこのような味を引き出せるとは、人間の凄さ、鮨職人の凄さを教えてもらった。
穴子
対馬産だが脂に加えて香りもあり、上物である事が分かる。
食感はふわとろ。
椀
キンキとシジミの潮汁。
玉子
甘海老を用いた玉子焼き。
店舗情報と予約方法+関連記事
予約についてはお電話のみとなります。
文中に記載の通り前日までの完全予約制で、日曜・祝日は3日前までの予約が必要です。
また、キャンセルや予約人数の減少については、予約日の3日前からコース料金100%を人数分お支払する必要があります。
これは日本では導入するお店がまだ少ないものの、海外では当たり前のルール。
それだけ凄い食材を仕入れ、仕込みを徹底されている証ですので、ご理解の上で訪問しましょう。
拙ブログの読者様にそのような方はいらっしゃらないかと思いますが、様々な料理人から苦言を伺うので念のため…。
店名:鮨 たな華(すし たなか)
シャリの特徴:赤酢、米酢のシャリを別々に用意し、お酢1種類で絶妙に仕上げる。
予算の目安:おまかせ¥22,000(税込み)〜
電話番号:011-215-0120
住所:北海道札幌市中央区南六条西1丁目 6.1ビル1F
最寄駅:豊水すすきの駅から150m
営業時間:17:00~23:00
定休日:不定休
【関連記事】
〜握りのみでコースを仕上げる凄腕職人さんのお店〜
・鮨處やまだ(東京都・銀座)

・地蔵鮓(東京都・白金)

・鮨猪股(埼玉県・川口)

・田可尾(福岡県・天神)

有馬をベースに一幸と和喜智のエッセンスを加えたお店ですね。
ピアノ置くようなオーナーから離れて独立されたら伺いたいですね。
それなら有馬くらいの値段でやれるでしょうし。
笹様
>有馬をベースに一幸と和喜智のエッセンスを加えたお店ですね
有馬さん、一幸さん、和喜智さんは全て伺っていますが、そのようには感じませんでした!
オリジナリティがある仕事をされていますよ。
また、オーナーはいらっしゃいません。
どこからそのような情報を入手されたのでしょうか?
ご教授頂けましたら幸いでございます。
ご確認のほど、よろしくお願い申し上げます。
いつもブログを参考にしております。
2021/7月に鮨たな華に伺い、とても美味しかったのでコメントします。貴ブログの通り脱水熟成したバフンとムラサキウニ、鯖の押し寿司とか珍しい仕事や道内タネも堪能できました。
米酢と赤酢のシャリはシンプルだし、日本酒は王禄しか無いし、職人としてのこだわり抜いてる部分も良かったです。
ちょっと残念だったのはちょうど光物が無かったのと、アナゴは個体が悪かったのか臭みがあったくらいです。
握りのみ2万2千円でも満足度は高かったですが、
酒豪の自分としては酒肴も楽しみたかったですね。
たびモン様
コメントありがとうございます!
江戸前鮨を謳うお店で光物が無いのは気になりますね。
実は、他の方からも同じご指摘を頂いたところでした。
大変もったいないので、親方にお伝えしておきます!
お若い方なので、修正されて更に良くなることを願っています。
今後ともよろしくお願いいたします。
こちらこそ、SNSとか苦手で初めてコメントしましたがよろしくお願いします。
自分も田中氏は良い職人と思いますので、札幌に行く際はまた伺おうと思います。
今後も参考にしたお店に行きましたらコメントさせて頂きます