すしログ No. 321 鮨・肴匠くりや@札幌(北海道)

中堅から若手まで鮨の進歩が目覚ましい土地、北海道。

札幌はかねてから鮨の激戦区でしたが、ここ数年の変化には目を瞠ります。

和喜智さんのように定評を得たお店でも、時を置いて訪問すると深化に驚かされます。

東京、福岡に並んで「鮨」の進化を感じる土地、それが北海道なのではないでしょうか?

その北海道、札幌で、こちらは明らかに異端的なポジションに立つお店。

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なにせ、親方の安藤敏也氏は「超二流」を目指しているそうで、食べログには下記のような紹介分を掲載されております。

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創業から11年。廃業と背中合わせの8年間を経て、今の場所への移転を機に犠牲をかえりみないサイコパス気質が開花。マッド(狂人)的な思想で素材と自らのスキルのポテンシャルに進化を加え続ける
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ハッキリ言ってクレイジーな紹介文でしょう(笑)

個人的に、この文章が今回訪問した要因と言っても過言ではありません。

しかも、親方は鮨職人として修行された事は無く、居酒屋から転身され、我流と食べ歩きで技を磨かれたそうです。

くりやさんのおまかせの概観

安藤親方の鮨の流れは「すし匠系」を参考にされたとの事で、握りと酒肴が織り交ぜられる流れです。

ただ、あくまでも握りを重視されているので、握りを最後まで楽しめる酒肴の品数・サイズに調整されており、握りのサイズも通常サイズです

(僕はあまり好きな表現ではありませんが、所謂「男鮨」)。

とは言え、全体のボリュームは結構あるので、女性だけでなく男性もお腹を空かせて訪問する方がベターです(笑)

旨味が強い素材や旨味の相乗効果を用いたものが主体であるのも特徴なので。

同時に、熟成仕事を用いたタネの中に、小鰭、車海老、鮪の漬け、穴子など江戸前鮨を代表するタネを織り交ぜておられる点に、親方の鮨愛を感じます。

シャリは赤酢主体で酸味の強さが非常に特徴的です。

東京・新橋のしみづさん、佐藤親方時代のとかみさんのような酢の鋭さなので、酸味の強い赤酢のシャリが好きな方にヒットする味付けだと思います。

硬さは今の世の中で考えると、どちらかと言えば柔らかめに近い炊き加減ですが、ほどけ方は良好です。

使用するお米は北海道赤井川産「ゆきさやか」で、酢飯としての相性が良いお米だと感じました。

なお、酢はヨコ井の與兵衛がベースかと思いましたが、実際は江戸前赤酢(キサイチ)、美濃三年酢(内堀醸造)、三ツ判山吹(ミツカン)の3種ブレンドでした。

與兵衛は赤酢ブームの新店ラッシュに供給が追い付いていないと聞いておりましたが、親方いわく「北海道に出していない」との事。

なかなかシビアな対応をされておりますが、まあ、古くからの付き合いを重視されているのは鮨と言う料理ジャンル的には良い事でしょう。

むしろ、開業時点で通り一遍等に同じ酢を用いるよりも、酢を始めとする調味料を探求して独自のシャリを模索する方が、長い目で見て良い試みになるのは間違いありません。

昔とは異なり、酢も塩も醤油も、バリエーションが豊富な世の中なので。

お店の雰囲気は大変和やかで、親方も女将さんもフレンドリー。

また、完全一回転制でされているので、自然と一体感が高まります。

一見はもちろん、若い方でも楽しめる個性派鮨店だと感じました。

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この度頂いたお酒

瓶ビール(ハートランド)、愛宕の松・彗星純米大吟醸おりがらみ、華味之至(しかみ)吟醸、AKABU・純米

くりやさんのおまかせの詳細

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茶碗蒸し、ボタン海老とトマトの餡がけ

槍烏賊のゲソと耳を用いた団子入り。

トマトの酸味は初手から強く感じず、途中から奏功してくる塩梅。

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鮟肝、水蛸

鮟肝は噴火湾産で、水蛸は日高産。

水蛸の柔らか煮は、さっくり切れて皮はトロトロ。

香りが良い。

甘みを抑制している点が魅力的。

鮟肝も味付けは上品でクリーミーな口当たり。

臭みは皆無で、鮟肝の良い部分を引き出している。

付け合わせは全国ド定番の奈良漬けだが、鮟肝の味付けのお陰でバランスが取れている(奈良漬けの量も少ない)。

【鮟肝奈良漬け】はすし匠系列で編み出され、今や出し尽くされた感があるので、抑制は必須だと考える。

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初物の蛍烏賊

兵庫産。

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ガリ

酸味と塩気が利いており、スッキリな味付けで、食感がある。

なお、追加のガリは甘みが利いたものになる。

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マツカワ

8日間熟成の昆布〆。

むっちりした食感を残している点が魅力的な熟成。

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槍烏賊

松前産。恐らく寝かせている。

ねっちりした身はトロトロととろけ、寝かせるだけでなく、細かい包丁によって甘みを引き出している(舌への接地面積を広げて)。

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鮪赤身

片面のみ煮キリを塗り、ごく軽い漬け風に(後半に江戸前の漬けも登場する)。

鮪は2週間熟成させており、旨味がかなり強く、香りもある。

シャリの強い酸味と合う。

味のみならず、ねっちりした食感も存在感のあるシャリに合う。

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鰻串焼

親方ご自身が鰻好きなので出されているそう。

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たちぽん

冬の北海道らしい一品。

60℃で10分加熱しており、甘みが引き出されている。

ただ、餡の酢の塩梅を軽めにすると更に良いかと。

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べったら漬け

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ボタン海老

昆布〆。昆布の旨味を付けるよりも脱水を主眼とした仕事と見られ、ボタン海老の甘みをしっかりと楽しませてくれる。

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毛蟹

蟹味噌と混ぜるのは定番だが、繋ぎとして鮟肝を加えているそう。

これまた濃厚なパンチのある一貫で、鮟肝は違和感が無い。

同じくパンチのあるシャリとの相性が良い。

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鮪大トロ

赤身と同じく2週間寝かせている。

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鰊の焼き物

松前産のオス。

骨切りした後に焼いている。

脂が乗っており、鰊らしい香りも楽しめる。

これは鰊の焼き物として大変美味しい。

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出汁巻き玉子

口直し的なポジションの出汁巻き。

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蝦夷鮑

函館方面のもの。

蝦夷鮑自体が美味しいので、提供温度帯を上げられると、更に旨味と香りを楽しめると感じた。

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シシャモ

広尾方面のもの。雄。

季節外れのシシャモだが、「鮭で言うところの鮭児の状態の若シシャモ」との事。

精巣が未成熟で脂の乗りが抜群と言う事か。

確かに味わいは良く、香り、旨味ともに強い。

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鮨屋のブイヤベース

究極のアラ汁を目指して作っておられるそう。

ボタン海老、九絵、金目鯛などの出汁に、北寄貝の身と厚岸の大アサリを加えたもの。

旨味が濃厚!しかし、スッキリした喉越しなのは、出汁、塩、日本酒のみで作られているため。

二子玉川の㐂邑さんの魚介スープを彷彿するが、先方はビスク的な印象で、シャリの酸味を加えて調味しているので、

味わいは結構異なる。

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北寄貝

苫小牧産。

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小鰭

しっかり〆で、特に塩気を浸透させている。

北海道は小鰭を選べない点がネックで、入ってきたサイズに応じて仕事を変えているとの事。

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鮪中トロ

江戸前らしい湯霜のサク漬け。

旨味に加えて酸味のある鮪を活かす仕事。

シャリの酸味ともども、終盤でもサッパリと頂ける鮪の提供方法。

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車海老

天草産。甘みが強いので、シャリとの相性が良い。

くりやウニ

海胆

浜中の塩水海胆。

甘みが強く、香りがナチュラル。

長時間水気を抜いて握られている。

親方は出来る限り塩水海胆を用いるそう。

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穴子

対馬産。有明産の一番海苔を使用されて意表を突かれるが、対馬の脂が乗った穴子なので、海苔との相性が良い。

旬の時期には噴火湾の穴子も使用されているそうなので、興味深い(そちらでは海苔は使用されないそう)。

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赤出汁

ボタン海老の出汁がしっかり利いている。

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玉子

みっちりした食感で、糖類の甘みは強過ぎず、白身の甘みが活きている。

海老と大和芋だけでなく白身も用いており、糖類は和三盆と蜂蜜との事。

蜂蜜は主張しておらず塩梅が良い。

以上、酒肴10品、握り12貫、巻物、椀、玉子2種を頂き、お酒(瓶ビール半分、1.5合)込みで16,000円。

親方は一級のタネを仕入れる高級路線には進みたくないとの事で、仕事(調理)第一義を掲げておられます。

仕事で魚を旨くするのが、鮨。

今の世で素晴らしい心意気だと感じます。

そして、札幌は王道の「蝦夷前鮨」の名店から超個性派店もあり、面白いなぁと再認識しました。

鮨・肴匠くりやさんのお店の情報

鮨・肴匠くりや(食べログのリンク)

店名:鮨・肴匠くりや(すし・さかなしょう くりや)

シャリの特徴:赤酢3種類をブレンドし、酸味を強く利かせたシャリ。

予算の目安:おまかせ13,200円(税込)

最寄駅:南郷7丁目駅から400m

TEL:011-866-5055

住所:北海道札幌市白石区本郷通8丁目北1-22 石田ビル2F

営業時間:火〜土18:00〜22:00、日17:00〜21:00 ※最終入店時間19時・完全一部制

定休日:月曜日(祝祭日の場合は翌日振替休日)

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