すしログ日本料理編 No. 163 ももんじや@両国

こちらは創業享保3年(1718年)と言う東京屈指の老舗料理店です。

変わった店名ですが、ももんじとは「百獣」を示し、すなわち現代的に言うところの「ジビエ料理」のお店です。

こう聞かれると、江戸時代にジビエ料理!?と驚かれる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ただ、日本では江戸時代には獣肉食が基本的には禁止されておりました。

特に四つ足の動物は最も忌避されており、今でこそ老若男女に人気である牛や豚は明治時代になってから。

牛鍋は、明治初期のベストセラー、仮名垣魯文の『安愚楽鍋』の例で有名ですね。

そのような江戸時代に、こちらは何故大手を振って提供出来ていたかと言うと、もともとは薬屋であったため、獣肉を薬として販売していたそうです。

こちらに限らず獣肉を食すことを「薬喰い」と呼び、猪肉を「牡丹」もしくは「山鯨」、鶏肉を「柏」、馬肉を「桜」、鹿肉を「紅葉」などと呼んでおりました。

これらの呼称の名残は色々なところで残っており、特に馬鍋=桜鍋のお店は、現在も東京に点在しております。

こちらは猪肉=山鯨を売りとしており、店内外に猪の皮が吊り下げられており、インパクト絶大です(笑)

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ちなみに、『鬼平犯科帳』に登場する鬼平の根城、五鉄は【軍鶏鍋】が名物。

そして、モデルとなったお店は両国にあった「かど家」。

「かど家」は敢え無く2018年8月に閉店となり、文久2年(1862年)からの歴史に終止符を打ってしまいました。

個性を確立する老舗が失われるのは悲劇的ですが、池波正太郎氏は時代考証を踏まえて作中の料理を選んだと言われておりますので、創業こそ幕末ながらに江戸中期頃に「薬喰い」が好きな武士は多かったのかもしれません。

ちなみに、獣肉食がブームになったのは、文化・文政期(1804年~1830年)と思われます。

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お店は中々迫力のある外観。

中は近代的なビルで、ついつい名古屋城や大阪城の内部を思い出します(笑)

江戸から残る老舗の割に、下足番がいない点は意外でした。

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中にも毛皮。

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全て個室となり、寛ぐ事が出来ます。

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ちなみに、友人を待つ間、15分ばかり座っておりましたが、お茶は出てきませんでした。

多くの仲居さんが極めて厳格にマニュアルを守っている点は、訪問前にご了承された方がベターかと(笑)

ももんじやさんのお料理の概観

さて、お料理を頂いた感想としては、実にクラシカル。

良い点、悪い点がクッキリ分かる程にクラシカルです。

まず、良い点としては、名物の【猪鍋】がとても美味しい。

八丁味噌ベースのお味なのですが、これが意外にも上品な味噌加減と甘み。

江戸料理の鍋は甘辛くて食材の味が分からない事が多いので、これは新鮮でした。

頂いたのは【野獣肉コース】6,800円(税別)。
・猪スジ肉の煮込み
・猪鍋
・鹿刺身
・鹿竜田揚げ
・熊汁
・水菓子(黒豆のアイスクリーム)

上記の通り構成されるのですが、冒頭に鍋がいきなり登場します。

しかし、鍋料理を食べに来ているのだから、これは個人的には嬉しい計らい。

一品料理が美味しくボリューミーな鍋屋も多いですが、僕は「鍋がありゃあ良い」と思います。

なので、老舗のスタイルは大いに結構。

そして、こちらは味わい的にも序盤で頂いても、他の料理に影響が少ない味付けと言うのが嬉しいところです。

悪い点としては、調味料が非常に貧弱である点。

鍋と合わせる山椒は気が抜けており、香りも痺れもあったものではない。

鹿肉の刺身の山葵は、クオリティの低い混ぜ山葵。

これらがこのレヴェルなので、他の調味料も推して知るべし、です。

如何に老舗と言っても、調味料は現代のレヴェルに合わせるべきでしょう。

まさか301年の歴史の中で指摘する客は自分が初めてだとは思えませんが(笑)、早急に改善された方が良いです。

この度頂いた料理は下記の通りです。

※カメラをメンテナンスに出しているため、スマートフォン撮影にて恐縮です

 

ももんじやさんの料理の詳細

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猪スジ肉の煮込み

メニューには「スネ」肉との記載だったが、仲居さんの説明は「スジ」肉。

何れにせよ、ホロホロな食感が印象深く、味付けも控えめである点が嬉しかった。

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猪鍋

猪は丹波篠山産の天然モノで、鮮度が高い。

匂いのクセは無く、流石に名物だと実感する。

肉厚で力強さを感じさせながら、繊維質のほどけ加減は良い。

脂の旨味、甘みも申し分無し。

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鍋は前述の通り八丁味噌ベース。

室内に当初から鍋が置いてあり、一瞥では椎茸に見える。

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八丁味噌に加えて出汁も強めに利かせており、これは関西ではなく関東らしい味わいだと感じる。

生姜も上品に用いている。

甘みに関しては、現代では(人によっては)やや強めだと感じるかもしれないが、多くの江戸から残る老舗としては優しい。

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山椒は貧弱であるが、芹が嬉しい仕事。

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鹿刺身

産地はまさかのニュージーランドで、養殖モノ(=畜産)との事。

まあ、味が良ければ構わぬ、と頂いてみたが、冷凍による品質の劣化を少々感じてしまった。

また、包丁が粗い。

切り付けの厚みに加えて繊維の断ち切りも悪く、冷凍+包丁で味を損ねている印象を抱いた。

味わいは酸味が強く、淡白で水分量が多い獣肉である(鹿の赤身らしい)。

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鹿竜田揚げ

これは刺身とは対照的に美味しい。

ふんわりジューシィに揚げられており、肉の酸味があるので下味と巧く合致。

衣はサクサクで揚げ加減も良い。

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熊汁

これは鍋とは逆に八丁味噌の塩梅が強い。

赤だしをイメージか。

味付けが強いので、肉を吟味する事は難しいが、食感と脂の融点により熊肉である事が分かる。

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水菓子(黒豆のアイスクリーム)

定番のメロンで無く、ホッとした(笑)

ダメ出しもしたが、全体的には満足度が高い老舗です。

老舗で味と個性を確立しているのは、素晴らしい事です。

下品な改装のお蔭で雰囲気はありませんけれど(笑)

味、個性、雰囲気、接客を兼ねそろえている老舗は、全国でも非常に少ない気がします。

残念ながら。

「江戸時代のジビエ」を体感されたい方は、是非とも訪問してみてください!

「亥年限定猪づくしコース」も提供されておりますので。

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ももんじやさんのお店の情報

WEB予約は一休、ホットペッパー、食べログなどから可能です。

ももんじや(一休のリンク)

ももんじや(ホットペッパーのリンク)

ももんじや(食べログのリンク)

店名:山くじらすき焼き ももんじや(やまくじらすきやき ももんじや)

食べるべき逸品:猪を中心とした江戸の「薬食い」を伝える獣肉料理。

予算の目安:猪鍋と料理3品コース¥6,000、野獣肉コース¥6,800など

最寄駅:JR両国駅から400m、大江戸線両国駅から850m

TEL:03-3631-5596

住所:東京都墨田区両国1-10-2

営業時間:17:00~21:00

定休日:日曜 ※大相撲東京場所開催中と12月は営業

※予約訪問がベターです

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