熊本随一の江戸前鮨!男気あふれる握りの鮨仙八

No. 318に記事を追加してリライトしました。

こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。

こちらは初めてお伺いした際、熊本にあってくれて良かった!と感じた熊本の鮨店です。

魚はほぼ全て地物と九州産で、江戸前仕事とそれをベースにした個性的な仕事を駆使されます。

5年前に初めてお伺いした時すでに仕事が確立されていましたが、伺うごとに深化させておられ驚きます。

現在は熊本のみならず九州全土における名店の一つと言っても過言はありません。

熊本の海の幸と高度な鮨を味わいたいならば、確実なお店です。

【移転情報】

2023年12月17日に福岡に移転されました。

親方の中原貴志さんについて

「仙八」さんは2012年のオープンですが、実は4代続く鮨店です。

初代は1939年(昭和14年)に屋台でスタートしたとのこと。

東京ならいざ知らず、戦前に熊本で屋台鮨を開業されるとは凄い話です。

その後、2代目の時代に店舗として営業を開始したそうです。

4代目・中原貴志さんは1983年生まれ。

最初の修行は鮨ではなく、日本料理だったそうです。

福岡の割烹「とき宗」で日本料理人としてキャリアをスタートされ、その後、東京の「鮨 真」を始めとする鮨店で修業。

2012年、28歳の折に独立されて現在に至ります。

中原貴志さんは「職人」と言う言葉がピッタリな方だと感じます。

お話しても、鮨を頂いても、一本の芯が通った方。

自身の思想や哲学を鮨で表現されているように感じ、時代に流されない職人気質を感じます。

それでいて、酒肴と握りは決して堅苦しくはありません。

むしろ「華」があります。

魚の切り付けや盛り付け、器の選択などから、美的センスをひしひしと感じ、実に華やかで粋だと感じます。

そして、名声を得ても慢心されていない点も実に職人らしいです。

時を置いて再訪すれば、職人としての足跡が味で分かります。

中原親方は同じ仕事でも格段に精度を上げておられ、妥協せずに前進されている事が分かりました。

恐ろしい事に、職人仕事は「これで良いや」と現状維持に走ると、次第に劣化していくものです。

現状を超えるものを目指して初めて現状が維持され、気付いたら現状を超える状態になるのが、職人仕事だと思います。

予約困難店や超有名店であっても、再訪しても変化が無い事や、下手すると季節が違うのに御料理が同じ事すらあります。

世間ではこのようなお店を持て囃し続ける傾向がありますが、僕は決してそうしません。

ただひっそりと再訪しないだけです。

中原親方のような職人仕事こそ、自然と将来を気にさせ、足を運ぶ原動力になります。

鮨仙八のシャリと仕事について

中原貴志さんのシャリは、赤酢を強めに利かせていて、美味しいです。

炊き加減は硬めで、酢が立ち、塩気も強め。

ただ、塩気については昔に比べると穏やかになっていて、あらゆるタネとの相性が上がっていると感じます。

また、手返しの速度と精度も向上されており、掌で踊るように鮨が握られます。

当初は手数が多いとお見受けしましたが、それでも一手一手の速度と精度は非凡なものでした。

米粒はパラリとほどけ、一粒二粒だけが口の中に残る見事なシャリだと感じます。

炊き加減は必要以上に硬くないので、α化してお米の甘みも感じさせます。

砂糖は使用していませんが、お米の甘みと赤酢の旨味でバランスが取れています。

温度の管理は極めて素晴らしく、お米の温度が常に高いレベルをキープしています。

有名店でも温度のムラを感知する事はありますので、中原貴志さんは手指の感覚が鋭いのだと思います。

ちなみに、お米は九州と奈良で有名なヒノヒカリです。

仕事については、握りでは王道の江戸前の仕事とモダンな仕事を組み合わせ、酒肴では独創的な仕事を使われることが多いです。

酒肴で【鱈の白子のムース】を出し、トマトのジュレやオリーブオイルを用いつつ、味覚的に鮨店で味わう料理の範疇を出ていない点が魅力。

油脂や塩味、あるいは砂糖の甘みは人の舌を美味いと錯覚させる効果があるので、ついつい使用してしまう人は多いですが、使用時には使用量を抑えなくては本当に美味しい味にはなりません。

焼肉のタレをイメージすると分かりやすいでしょう。

肉の味を殺す濃口のタレよりも、適度な塩で食べた方が肉の美味しさが分かりますので。

中原親方の酒肴は「鮨店としては味が濃い目」ではありますが、あくまでも握りを楽しむ前の酒肴として作られているので、好感が持てる次第です。

酒肴で遊びつつ、握りの針魚や春子などのクラシカルな〆ものは硬派でハイレベルな仕事である点に、親方のセンスとスキルを感じます。

なお、一つだけ少し残念に思った事があります。

それは、鮪の使用です。

当初お伺いした時に感銘を覚えた親方の言葉があります。

それは、「鮪を使うと、(赤身、中トロ、大トロで)3貫使っちゃうので使わない」、「鮪はある意味楽な魚なので、逃げになるので使わない」と言う言葉です。

これは東京の鮨店ならともかく、地方の鮨店の場合、示唆に富む言葉です。

ただ、今回は赤身と中トロが登場し、後者は使う必要性に乏しい味でした。

前回は中トロと鮪の頭の燻製漬けだったので、使い必要性を感じたのですが。

もちろん地方でも美味しい鮪を出すお店は沢山ありますが、以下のケースでは使わなくても良いと考えます。

  • 鮪が弱い時期
  • 他に美味しい魚がある土地
  • 仕入れる鮪のクオリティが低い場合
  • 鮪で原価の大半を占める場合

「鮪は鮨屋の花形」、「鮪が無いと鮨店の暖簾は出せない」と言われたのは、今は昔の話です。

今や鮪の漁獲量は激減し、しかし、鮨店は増加しているので、上質な鮪が取り合いになっている状況です。

そして、上質な鮪は全て豊洲に運ばれます。

僕も鮪は大好きですが、地方の職人さんは鮪に縛られ過ぎ無い方が良いと思う昨今です。

これは食べ手も同様で、「鮪が無い鮨店は二流」などと思わない事が大切です。

話を戻すと、中原親方も鮪を必須だと思われず、最初の頃の思想で鮨と向き合われても良いように思いました。

ヘタなトロを使うよりも、地物の魚で美味しいモノは沢山ありますので。

鮨仙八の立地と雰囲気

お店は歓楽街の雑居ビルの地下にあり、初めて訪問される場合は意表を突かれると思います。

地下1階の奥にありますが、躊躇することはありません。

店内は清掃が行き届いていて、空気も清浄です。

お店の雰囲気は落ち着いていますが、緊張感は無く、和やかです。

歓楽街にある鮨店だとどうしても騒々しいお客さんを想像してしまいますが、今のところ遭遇したことが無いので、品格のある大人のお客さんが多いように感じています。

親方は目配り、気配りが徹底しつつ、同時に馴れ馴れしくない点は中々無い魅力です。

鮨仙八さんのおまかせの詳細(実際に頂いたもの)

おまかせは一人17,000円前後となります。

内容を考えるとコストパフォーマンスは非常に高いです。

しかも、税込みです。

仙八お酒

お酒の価格も全て明示されていて、実に実直な商売をされています。

初春に訪問した際の記事

2021年3月訪問

仙八酒器

鮃、鯖

仙八鮃と鯖

鮃は肝醤油で頂く。

仙八鮃

パンチある味わいの品でスタート。

「淡い味の白身魚の刺身」がセオリーなので、アンチテーゼのようにも感じる。

しかし、その後にネガティブに作用する事は無く、むしろ食欲が刺激される。

残った肝醤油は定番の食べ方で。

仙八肝醤油とシャリ

この食べ方ならば醤油は少なめの方がベターだと感じた。

太刀魚の蕗の薹酢味噌添え

仙八太刀魚の蕗の薹酢味噌添え

これは素敵な一品!センスのある食材の取り合わせだ。

蕗の薹は香りが良く、酢味噌の酸味とともにホロ苦さが爽やかに漂う。

白魚の桜蒸し、菜の花、空豆

仙八白魚の桜蒸し、菜の花、空豆

八代産の白魚を桜の葉に乗せて蒸したもの。

梅酢と叩いた山芋とともに。

桜の香りが心地良く、空豆の甘みとホロ苦みも春らしい。

鱈の白子のムース

仙八鱈の白子のムース

トマトのジュレにオリーブオイルを使用。

トマトは良い香りと酸味。

白子に生クリームを加えることでインパクトを高めている。

鮨店としては離れ業のような酒肴だが、重たくなっていないので上品に感じる。

揚げ里芋と蟹餡

仙八里芋

水俣市山手町の里芋。

蟹餡は出汁を利かせている。

里芋の香りと甘みにほっこりする。

この後、握りに移行します。

アオリイカ

仙八アオリイカ
1週間の熟成を掛けていて、予想を超えるテクスチャー。

ペースト状!

それでいて、所々コリッとするところが面白い。

さらに、トロトロと濃密だが、香りも楽しめる。

この仕事をアオリイカで行っている点が良い。

甘み優先で食感が柔らかいアオリイカだから映える仕事で、これを墨烏賊で行うのは無粋になってしまう。

針魚

針魚

プチプチとした食感を楽しませる〆加減。

シャリの味が勝つ事を危惧するも、針魚の旨味が込み上げてきて無事に着地する。

仙八鯵

脂が乗っていて、それだけでなく旨味も強い。

香りがふてぶてしい点も魅力的な鯵だ。

連子鯛

仙八連子鯛

クラシカルな方向性で〆つつ、爽やかと上品さがある。

ジューシィな点がモダンであり、旨味も引き出されている。

繊維質がほどけていく感じが良い。

全くぐにゃっとせずに、ただほどけるのだ。

シャリの酸味とも合っていて、大変魅力的な仕事。

仙八鰤

寝かせて旨味を強めつつ、香りも雄々しく残し、クドくない。

赤貝

仙八赤貝

信じられないくらい巨大な赤貝。

香りは弱いものの、甘みが強い。

仙八鰆

恐らく熟成を掛けてから藁で炙り、さらに漬けている。

スモーキーフレーバーのみならず鰆の香りも活きている点が素晴らしい。

鰆の脂も上手く使っている。

これは鰆の仕事として完成度が高い。

鮪赤身

仙八鮪赤身

旨味主体の赤身。

ほのかに立ち込める酸味と、こなれた香りが印象的。

鮪中トロ

仙八鮪中トロ

脂がじゅわっと溢れる中トロ。

小鰭

仙八小鰭

塩も酢もしっかり利かせ、恐らく4日ほど寝かせていると見る。

ジューシィで香りをしっかり立たせる仕事なので、終盤戦向けの小鰭である。

車海老

仙八車海老

大グルマ。味噌と頭尾肉を叩いて噛ませている。

茹で上げを温度下げてから使用か?

むっちりした食感と強い甘みを楽しませ、シャリの酸味が良い相性だ。

椀

アオサとなめこの赤出汁。

魚介の出汁がしっかりと出ている。

海胆軍艦

海胆軍艦

甘みが強い海胆。

トコブシのリゾット!

仙八トコブシのリゾット

辣韮や黒胡椒も使用。

苦み強めの肝が面白い。

ひもきゅう巻き

仙八ひもきゅう巻

大葉も使用しているので爽やか。

玉子

仙八玉子

厚みがあり、均一にふわふわしっとり感がある。

海老の香りは強めで、甘みは程々。

厳冬にお伺いした際の記事

2020年2月訪問

f:id:edomae-sushi:20200202090620j:plain

この度頂いたお酒(各1,000円)

花の香・和水純米大吟醸、亀萬・九号酵母純米吟醸、産山村・純米吟醸 無濾過生

先付

f:id:edomae-sushi:20200202090625j:plain

前述の椀。

3年前でも「定番」と仰っていたが、それを進化させているのは凄い事。

f:id:edomae-sushi:20200202090631j:plain

肝醤油と共に。鮃自体の旨味も強いが、肝が旨味を更に引き立て香りも加える。

白魚の酒蒸し

f:id:edomae-sushi:20200202090636j:plain

白魚は八代産で、桜の葉の上に乗せて蒸されている。

よって、桜の穏やかな香りがふんわり漂い、待ち焦がれる春の木漏れ日を思わせる。

添えられた真珠貝の干し貝柱、菜の花も味覚や香りで魅力を高める。

太刀魚、蕗の薹味噌、蕗の葉

f:id:edomae-sushi:20200202090641j:plain

創作的ながら上品にまとめられた逸品。

太刀魚に火を入れずに提供し、初春の香りと届ける感覚が、好きだ。

脂をたたえた太刀魚、それを苦味と香りに満ちた蕗の薹が主客転倒しそうでしない。

白海松貝の一夜干し、肝ソース

f:id:edomae-sushi:20200202090645j:plain

海松貝=ミルクイとは異なる白海松貝=ナミガイであるが、良い活かし方だ。

海松貝であっても肝は使われない事が多いので、巧い、と感じる。

独特に匂いや苦味は無くバランシングされている。

セレベスのから揚げ、天草の新物アオサ

f:id:edomae-sushi:20200202090650j:plain

セレベスは海老出汁で炊いているそうで、旨味と香りが良く、食感は柔らかい。

冬の時期、芋の旨味は格別。

それに熊本らしさを加えている。

ガリ

f:id:edomae-sushi:20200202090655j:plain

塩気と辛味が来て、酸味を感じる。

甘みは排除されている。

過去と切りつけが異なるが、味の方向性は同じ。

アオリイカ

f:id:edomae-sushi:20200202090700j:plain

ほぼペーストのような食感で、ひとえに甘みの権化!

アオリイカは食感よりも甘みが優先されるイカであるので、これは良い。

恐らく寝かしているのだろうと推測。

タネのインパクトが大きいものの、実際はシャリを感じさせる名刺代わりの一貫目であろう。

連子鯛

レンコダイ

春子。しっとりした身はとろりとほどけ、甘みと香りがある。

f:id:edomae-sushi:20200202090709j:plain

肉厚なのにホロッととろけ、酸味を感じさせる〆加減。

f:id:edomae-sushi:20200202090715j:plain

脂の乗った鰯に酸味を強く利かせて〆、

握る前にシャリを交換して温度を調整されている。

脂の多いタネに高温のシャリを合わせる方法論は、東京で近年定着した手法。

それを採り入れ自家薬籠中とされている点に刮目した次第。

赤貝

スッキリ味の赤貝。

込み上げてくる余韻で攻める味。

f:id:edomae-sushi:20200202090722j:plain

玉葱醤油漬けと言う変化球。

しかし、一体感は高く、嫌味無し。

玉葱の香りが後味を引き締める。

鮪中トロ

f:id:edomae-sushi:20200202090726j:plain

脂の乗った中トロで、香りと酸味は穏やかなので、シャリの味が補って活かす。

鮪の頭の燻製漬け

f:id:edomae-sushi:20200202090731j:plain

更に美味しくなっていてパンチがあり、後半戦に相応しい一貫。

藁炙りのスモーキーフレイバーが鼻孔をくすぐり、脂がしっかりなので食べごたえは抜群。

車海老

f:id:edomae-sushi:20200202090740j:plain

肉厚で、茹で置きながら力強い甘み。

海老味噌も噛ましており、美味い。

海胆軍艦

f:id:edomae-sushi:20200202090745j:plain

海苔は薄めのものであるが、香りが強くて印象に残る。

海胆も甘い。

f:id:edomae-sushi:20200202090749j:plain

赤出汁

穴子

f:id:edomae-sushi:20200202090753j:plain

肉厚でふんわり。煮ツメも濃厚で良い(恐らく過去よりも)。

玉子

f:id:edomae-sushi:20200202090757j:plain

しっとりした食感で、表面の皮が香ばしい。

お会計総額からお酒の価格を引くと、16,200円。

過去に比べてお値段が上がっているものの、それでも満足度は抜群だ。

絶対額云々ではなく、純粋な味わいとして代金に見合っている。

使用する魚に意識的で、仕事も研究されている点が魅力。

熊本は福岡に続いて、鮨店が増加する事も予想されるが、今の方向性であれば問題無いだろう。

精進して頂きたいと心より感じた。

鮨 仙八さんのお店の情報と予約方法

※以下は熊本時代の情報です。

鮨 仙八(食べログのリンク)

店名:鮨 仙八(すし せんぱち)

シャリの特徴:赤酢を用い、酢が立ち、塩気は程々。米粒のほどけ加減が抜群。

予算の目安:17,000円〜

TEL:096-322-9955

住所:熊本県熊本市中央区花畑町13-24 花畑ビルB1F

最寄駅:花畑町駅から190m

営業時間:月~木18:00~23:00、金・土11:30〜13:30、一部18:00~20:00、二部20:20~

定休日:日曜、祝日

▲目次へ戻る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA