こんにちは、鮨ブロガーの、すしログ(@sushilog01)です。
僕が鮨を好きになったきっかけは、20代半ばの頃に友人が自身の誕生日祝いで「回らない鮨店」に連れて行ってくれた事です。
その後、20代後半から鮨店を巡るようになり、何度もお伺いしているお店が、こちらの幸鮓さんです。
当時(と言っても10年ほど前ですが)は、WEB上に現在ほどに鮨店の情報は多くなく、予約困難店=優良店と思われる風潮も今よりも穏やかだった気がします。
その頃に江戸前の仕事や魚の旬を勉強させて頂いたのが、幸鮓の篠原親方です。
すしログ
鮨の食べ歩きを始める段階で、江戸前の古典的な仕事を徹底される篠原親方に出会えて良かったと心から感じます。
鮨職人のみならず、鮨の食べ手も基礎が重要なので!
幸鮓さんの立地と雰囲気
幸鮓さんは浅草線と大江戸線が走る、蔵前駅にあります。
現在はお洒落なお店が点在し、コロナ前は外国人旅行者で賑わう国際色のある街になりました。
少し前までは古めかしい問屋が現存し、下町の穏やかな空気感が漂う、渋い雰囲気の街でしたが、今では「日本のブルックリン」と呼ばれるほど。
幸鮓さんは大江戸線のA0出口そばにあります。
お店の外観は少し素っ気ないかもしれませんが、暖簾には鮨好きならばグッと来る文句が躍っています。
すなわち、「人形町 㐂寿司より」。
そして、暖簾をくぐると、12席のカウンターが出迎えてくれます。
店内は当世風の鮨店のような雰囲気は無く、どちらかと言うと家庭的です。
温かみのある風合いの木調の壁で、今や珍しいタネ札が掛けられています。
例えおまかせのお店でもタネ札があると妙に気分が良くなります。
昔ながらの鮨を愛してきたからかもしれませんね。
幸鮓さんは以前から親方と女将さんの二人三脚で営んでおられます。
江戸前仕事のみならず江戸文化にも詳しく、趣味人である親方と、和やかな雰囲気の女将さんの接客にはいつも癒やされます。
僕が初めてお伺いしたのは30歳が見えてきた頃の20代でしたが、初訪問の時から楽しいお話をして頂きました。
一見すると、ちょっと職人気質を感じさせる雰囲気の親方ですが、お話をすると当意即妙に応えてくれます。
幸鮓・篠原敏之さんの経歴と仕事
現在の親方である篠原敏之さんは2代目です。
幸鮓の先代は、かつて京橋に存在した「幸鮨」で修行された方。
「幸鮨」は「江戸前鮨の開祖」と呼ばれる「與兵衞壽司」と並ぶ程の人気を博したと言う名店です。
初代は1954年に「幸鮓」を開かれました。
そして、2代目の篠原敏之さんも、老舗で修行。
それがすなわち、暖簾にある「人形町 㐂(喜)寿司」です。
「㐂(喜)寿司」も「與兵衞壽司」の流れを汲む名店で、1923年の創業です。
篠原敏之さんの仕事には、「㐂(喜)寿司」の影響が見られ、【オボロの握り】や【マカジキのハラモ】などは今では少なくなった昔ながらの鮨です。
しかし、「昔ながら」と言っても古臭さが無い点が篠原敏之さんの仕事の魅力です。
最初に訪問してから、数え切れないほどの鮨店を回ってきましたが、時を置いて再訪して、いつも安堵と確かな美味しさを与えてくれます。
小鰭の〆加減なども調整されていて、どちらかと言うと、古典的な〆よりは現在主流の〆加減に近い印象を覚えます。
しかし、キッチリ脱水されていて、旨味が凝縮しています。
〆てから寝かせる日にちは長くはないものの、小鰭の魅力を引き出す秀逸な〆加減です。
そして、シャリについても古典的な流れを汲むお店にして現在頂いても古臭さを感じさせません。
お酢と塩の塩梅は穏やかで甘みもありますが、野暮ッたくありません。
シャリの温度も温かめで、ぱらりとほどける炊き加減です。
昨今のパンチのある味わいの赤酢のシャリを食べている人には穏やかすぎると感じるかもしれませんが、鮨はシャリと仕事のバランスで楽しむものです。
いたずらに「旨すぎるシャリ」のみを是とする方は、サシが入ったA5和牛のみを是とする感性・味覚に等しい。
篠原敏之さんは山葵も徹底されていて、2種類の山葵を使い分けておられます。
酒肴にはブランド品種の真妻を使用され、握りには真妻よりも粘度のある正緑を使用されています。
こちらは正に「魚を旨くする、江戸前鮨らしい仕事」を楽しめる鮨店です。
幸鮓さんのおまかせの詳細
おまかせのメニューは2種類で、【遠州(先付3品と握り)】11,000円と【利休(肴と握り)】16,500円になります。
昔から僕は【遠州】を頂いています。
直近で頂いたおまかせの内容
2021年3月訪問時に頂いた内容です。
お酒は定番の東北泉と喜久酔を順にオーダー。
ビールはハートランドとキリン赤星があり、今回は後者を。
蛸
煮蛸の柚子胡椒和え。
酒肴の1品目は湯葉であることが多いが、ビールに合うだろうとの事で出して頂いた。
確かに相性が良く、コリコリした食感とピリ辛風味が爽やか。
ホタルイカ
滑川産。肝が滑らかくとろりとしていて、皮はコリコリ。
良い火入れ。
花山葵
香りとホロ苦さ、スッキリした辛味が実に爽快。
シャキシャキと良い食感。
真妻種の花山葵との事なので、贅沢だ。
酒肴でサラリと季節感を楽しませてくれるのが粋。
ガリ
甘みを利かせ、薄切りながらにシャキシャキした食感。
辛味は後からふわっと漂う。
真子鰈
旬の走りの真子鰈!
なんとも早い。
香りが良く、寝かせてしっとりした食感。
鯛
由良産。1日寝かせている。
身に二つの食感があり、皮下も加えて三重の食感になっている。
旨味に加えて香りも良い。
皮も美味しく食べさせるのが、昔ながらの鯛の仕事のように感じる。
若手職人さんは皮を剥ぐ方が多いが、皮を使ってみても良いかと。
墨烏賊
小柴産。バッツバツの、非常に強い食感。
最後に極とろりとほどけるが、基本的に食感優先。
これは、旨い。
個人的に、墨烏賊を寝かせるのは必然性に乏しい仕事だと感じる。
アオリイカのような甘みが強く柔らかい烏賊を好まれる嗜好性があるのかもしれないが、江戸前鮨に合うのは食感が強い墨烏賊である。
魚で言うと金目鯛やアカムツ(ノドグロ)のように、甘みや柔らかさばかりを求める食べ手は、若い。
車海老
茹で置きで冷えていても甘いのは流石の仕事。
繊維質もしっとりとほどける。
茹で置きの車海老を下に見る自称「鮨好き」もいるが、それは自ら経験が無いと公言しているに等しい。
針魚
意外にもしっとりした食感の〆加減で、針魚のナチュラルな旨味を楽しませる。
そして、針魚の香りを立たせる仕事。
小柱軍艦
甘く、香りも食感も良く、最後に軽いホロ苦味が漂う。
海苔はパリパリで、香りも良い。
鮪赤身
アイルランド産。タイヘイヨウクロマグロの雄々しい香りは無いが、タイセイヨウクロマグロらしい身質と軽い酸味の赤身。
真梶木(マカジキ)のハラモ
銚子産との事なので、漁法は突きん棒漁か?
これは予期せぬ嬉しい出会いであった。
ただでさえ出す鮨店が減る中、今年は不漁だったのか、極めてレアだ。
目が覚めるような香り、酸味、旨味に恍惚となる。
海胆軍艦
歯舞のバフン(小川)。
バフンなのにスッキリした味が持ち味で、印象的。
小鰭
天草産。小鰭については、古典的なバッチリ〆ではなく、どちらかと言うとモダンな印象を受ける、ジューシィな〆加減。
それでいて旨味と脂を楽しませてくれる抜群の仕事!
酸味の塩梅も程良く、臭みは皆無。
牡蠣
牡蠣はぷちっと弾け、甘みと香りが広がる。
火を入れても無粋でない火入れ。
柔らか目の牡蠣を目指す方が多いが、火を入れても楽しいのが牡蠣の仕事だ。
しかも、篠原親方はベテランなのにかなり早い段階で牡蠣を出されていた。
蛤
煮ツメ無しながら、しっかり漬け込み、満足感の高い煮蛤。
身はやや薄いが、しっとり且つシャクシャク。
穴子
みっちりした食感に仕上げている。
こちらは甘くなく、塩でキリリと食べさせる。
玉子
薄焼きの鞍掛けで、非常に古典的なスタイル。
この形式で出される鮨店は本当に少ない。
シャリと一緒でも〆になるスイーツ的な趣向がある玉子。
椀
広田湾の大ぶりな牡蠣を使用した、冬の名物椀。
広田湾産の牡蠣だけに大きくて、ぷりっと弾けて、実に滋味深い椀。
干瓢巻
甘みが強めで、食感があり、山葵が上品に引き締める。
海苔の香りがとても良い。
過去訪問時の記録「すしログNo. 1」の記事
下記は、記念すべき「すしログNo. 1」で書いたダイジェスト版です(2015年2月11日20:35にアップ)。
ハッキリ言って、写真が稚拙ですし考察も浅くて恥ずかしいです(笑)
しかし、当ブログは読者の方とともに成長したいと言う思いがあったので、最新の訪問記事と合わせて記載し続けます。
小鰭
香りと旨味を引き出しつつ、しっとりジューシーな食感を楽しませてくれます。
ここまでジューシーに仕上げる小鰭は非常に珍しい。
いつ伺ってもブレのない仕事です。
新子
夏に頂く新子も格別。
しっかりと「旨味のある新子」を楽しめます。
それは確かな〆の仕事の賜物でしょう。
鯖
針魚
春子
〆ものはいつも大変美味しく、光物好きには嬉しいお店です。
墨烏賊
江戸前のスタンダード、墨烏賊も素晴しい歯ごたえ。
蛤
煮蛤も柔らかく、味わい深い。
煮烏賊
地味な外見ながらに、食感に優れた美味しい煮烏賊。
こちらの煮烏賊は口当たりが柔らかくて、歯切れが良い。
そもそも煮烏賊を出す鮨店自体が、江戸前鮨好きとしては琴線に触れる。
マカジキ
友達と貸し切りにさせて頂いた際には、マカジキを頂きました。
ご主人の修行元・喜寿司で頂いて以来の感動でした。
穴子の肝の軍艦
珍しいところでは、穴子の肝の軍艦があります。
オボロの握り
オボロの握りも古典的な一貫。
ありそうでない、古い江戸前を魅力的に再現した握りです。
これは喜寿司の系譜ならでは。
玉子
玉子は薄焼きの鞍掛け。
こちらは立地や雰囲気、鮨の仕事的に結構「渋い」お店かもしれません。
ただ、鮨店にあまり行ったことの無い友達を連れて行くと、みんな喜んでくれます。
そして、口を揃えて、鮨を食べ歩きたくなった!と言います。
これぞ、幸鮓さんの魅力でしょう。
故に当ブログの第一号記事として書かせて頂きました。
味わいとコストのバランスに優れていて、普段使い出来る優良店です。
幸鮓さんのお店の情報
予約についてはお電話のみかと思っていましたが、なんとぐるなびとホットペッパーからも可能です。
これは今回調べて驚きました(笑)
僕は電話派ですが、シャイな方は是非。
店名:幸鮓(こうずし)
シャリの特長:酢加減、塩加減ともに穏やかで、お米の硬さは標準的。老舗だが人肌温。全般的に合う。
予算の目安:【遠州(先付3品と握り)】11,000円、【利休(肴と握り)】16,500円
TEL: 03-3863-1622
住所: 東京都台東区蔵前3-4-8
最寄り駅: 都営浅草線・蔵前駅から60m
営業時間: 18:00〜22:00
定休日:日曜、祝日
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久々にお伺いして、他店には無い魅力を再認識した、すしログ(@sushilog01)でした。
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