すしコラム No. 1 鮨店のハードルについて

ずいぶん仰々しいタイトルを付けましたが、ライトに書きます(2015年5月30日 16:28公開)。

 

このような文章を書こうと思った理由は、最近、友達からとても頻繁に、「鮨屋ってハードルが高くない?」とか、「鮨屋でどう振る舞えばいいの?」と尋ねられたり、果ては「鮨屋は怖そう(笑)」と言われることが多いためです。鮨を愛する者として、みんながもっと気軽に鮨店に行けたら良いなという願いを込めて書くことにしました。当ブログでは鮨ファンを増やす事を主眼といたします。

 

率直に言うと、確かに鮨店は他の料理店に比べると、緊張感を覚えるジャンルかと思います。お店にキリッと引き締まった雰囲気が漂っていることが一般的で、カウンター越しに凛とした職人さんと向き合う必要がある…。

 

しかし、僕はその「緊張感」こそが、鮨店の魅力の一つだと思っています。鮨店通いを繰り返して慣れてしまえば、緊張感は確実にほどけてゆき、むしろ程良い緊張感が不思議なほど「非日常的な安らぎ」を感じさせてくれます。カタルシス、に近いかもしれません。さらには、料理される光景を全て見ることが出来て、カウンター越しにシェフと直接コミュニケーション出来るなんて、考えようによっては素晴らしい料理形式ではないでしょうか?

 

確かに鮨店には、強面のご主人や職人気質のご主人もおられますが、美味しいと感じたところで素直に「美味しい!」と言えば、大体上手くいくもんです。「美味しい」という言葉はマジックワード。「美味しい」と言われて喜ばない料理人なんて、料理人ではありません。

 

さて、具体的な話になりますが、鮨店にはどう伺って、どう頼めば良いのかをお伝えしたいと思います。

 

まず、「伺う前に予約をした方が良いのか?」という質問については、僕は基本的に少なくとも2~3日前までには予約した方が良いと思います。鮨に使われる上質な鮨種(魚介類)は漁獲量が少なく、非常に高価なものです。しかも生の状態で出すのではなく、「仕事」、すなわち調理と調味を施すため、提供には多大な手間と時間がかかるものなのです…。そこで、前もって予約をしておけば、お店の方も安心ですし、確実な仕入れを期待できるので、自分の満足度も上がるのではないかと思います。

 

それでも、「予約をしないで気軽に食べたい!」と言う欲望に率直な方には、ランチ鮨をオススメします。鮨店は席数が少ないので、流石に訪問前にお電話をした方が良いとは思いますが、ランチ鮨を提供されているお店はある程度の客入りを見込んでいるお店なので、夜に比べると訪問のハードルは低いと言えます。他のお客さんもカジュアルに来られていることが一般的なので、気楽です。そして、コスト的にも夜に比べると廉価。夜と同じシャリと仕事(=〆る、漬ける、煮る等)を味わえば、お店がどのような握りを出すのか手軽に確認することが出来ます。ランチで気に入れば、夜に再訪するのも一興。

 

次に、「どう頼めば良いのか」については、幾つかパターンがあります。

 

鮨店には昔から「おまかせ」、「お決まり」、「お好み」が存在します。イメージ的に「お好み」で頼まないといけないように思っておられる方が多いですが、僕は「お決まり」をオススメします。「お決まり」とは8貫+巻物くらいを小さいコースにしたものです。こちらを頂けば、そのお店の味やスタンスが分かるので非常に便利です。握りのタネのストーリー性については別の機会に書きたいと思いますが、「お決まり」であれば値段が決まってもおりますので、まずは、「お決まりを頂けますか?」ないし「一人前でお願いします」と伝えるのがベストです。「お決まり」で慣れてきたら、「お好み」に移行すれば良いように思います。
※とは言え、おまかせ一本のお店が執筆後も増え続けていますが…

 

次に、鮨を頂く際の細かい注意点について書きます。

 

まず「手で食べたほうが良いのか」それとも「箸で食べたほうが良いのか」については、「どちらでも良い」が僕の結論です。昔の文献を紐解くと、食通と言われる人たちでも意見が分かれていたようです。なので、気にせず自分の好きな方法で食べるのがベストです。ただ、個人的には、抵抗がなければ手をオススメします。単純に、手の方が食べやすいので。また、女性の方がグルメな男性に連れて行ってもらった際は、是非とも手で食べてみてください。相手の目に美しく、格好良く映るのではないかと思います。見当外れのグルメ雑誌や食マナー講師は「女性は箸で食べるのが美しい」と言っていますが、時代錯誤の押しつけは無視しましょう。

 

そして、頂く時に「醤油を付けるものか?」と疑問を抱く方もいるかもしれませんが、表面に煮キリ醤油が塗ってあれば、付けるのはNGです。卓上に醤油差しが置いてあるケースもありますが、それは夜の酒肴(刺身)用です。なので、お店に入ってすぐさま醤油を注ぐのではなく、最初の一貫を見て確認して下さい。煮キリが塗られていたら、「あ、不要なんだ」と。ちなみに、醤油をつけるお店であった場合には、シャリ(すし飯)ではなく、タネの方に付けてください。シャリの方だとバラバラにほどけてしまいますので…

 

最後に、鮨店でのコミュニケーションについて書きます。

 

個人的に鮨店で最もやってはダメだと思う行為は三点あり、「うんちくを語ること」「隠語を多用すること」「他店の話を無用にすること」となります。この中で「隠語」については、食通ぶった年配の方でも使われている光景を見ますが、完全にNGです。最も聞くのが、お茶→「アガリ」、お会計→「おあいそ」。お茶のおかわりを「さしかえ」と言ったり、醤油を「ムラサキ」と言っている人もおります。「ムラサキ」などは職人さんすらあまり言っておりませんが、年配の方を中心に妙に使う人がいて不思議です。隠語はあくまでもお店の中の人の用語なので、使わない方がベターです。使っても良い(=今や一般化している)隠語としては、すし飯/酢飯→「シャリ」、生姜→「ガリ」、鮨種→「タネ(ネタ)」くらいかもしれません。また、うんちくについては、産地の披瀝が最も多い気がします。自分から産地の話をしまくったり、一貫ごとに産地を聞いたりする人が多々いますが、恥ずかしい行為です、これは。基本的にブラインドで当てるようにして、気になる種だけ確認しましょう。

 

以上、少々長々と書きましたが、まずはこれくらいを押さえていれば、初訪問の鮨店でも問題ないのではないかと思います(他は絶対に香水を付けないこと、くらいでしょうか)。少しでも参考となり、鮨店の魅力に気づいて頂ければ、心から嬉しく思います。

 

これからの執筆、頑張って参ります。

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