個人的に日本屈指の米酢のシャリだと考える、こちら青空さん。
4年以上前に伺って以来、二度訪問しましたが、予約が取りにくくなり、予算的に更に上になったと言う噂を聞いて、かなり長い間訪問しておりませんでした。
いわば、思い出の中に生きる鮨店になっていた。
しかし、この度、お店が移転されたタイミングで嬉しいお誘いがあり、再訪する事に…
僭越ながら、最後にこちらを伺って以来、訪問した鮨店は数100に及びます。
修行先のお店、すきやばし次郎さんにも訪問する機会を得ました。
そのような中、初心に戻る気持ちで頂き再認識しましたが、こちらは突出しております。
超個性的な米酢のシャリと、強い味わいのシャリに負けないタネのクオリティと仕事。
シャリとタネの一体感は極めて高く、唯一無二の味わいと魅力を鮮烈な輝きを以って提示してくれる。
34歳の若さですきやばしの三番手として活躍された後、独立されただけはあります。
(尚、一番手は勿論レジェンド小野二郎氏で、二番手は長男の小野禎一氏)
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青空さんの概観
昨今、赤酢のシャリが人気を高めている中、こちらは米酢のみ。
酢と塩を極めてアグレッシヴに用い、炊き加減も極硬。
口に入れた瞬間、驚いてしまうほどの際立った酸味と塩気です。
米は二種類を使用し、伝統通りの羽釜で営業時間中に何回も炊いている。
かつて、親方の高橋青空さんは鮨にとってシャリはどのくらい重要か?との問に、「60%以上」と回答されていたと記憶しております。
食べ手の僕は70%くらいの割合でシャリを大切にしておりますが、鮨を食べ始めてまだ日が浅かった頃、親方のシャリへの思いこそ、自身のシャリへの認識を改める事となり、
以降、シャリを意識的に吟味するようになりました。
久々に訪問した青空さんは鮮烈な輝きを帯びており、第一線の鮨店である事を再認識させてくれました。
独立されてから10年となる2016年の移転。
更なる進化が楽しみになり、季節を変えて訪問したいと強く思わされました。
この度は、酒肴は少なめで、握り中心で頂きました。
日本酒は一合のみ。
川村酒造店の酉与右衛門(よえもん)。
この度頂いた酒肴と握り
枝豆と蛸
枝豆は香り高いものの、「えッ!?枝豆??」と一瞬思ってしまう。
しかし、超高級な第一線の鮨店でありながら、初心を忘れぬ気持ちが込められているのでは…と個人的に解釈。
蛸は佐島。柔らか過ぎず、そこそこに食感を残し、香りを楽しませてくれる。
ブランド蛸と庶民的な枝豆の、遊び心のある取り合わせ。
鱧
かなり細かく刻んでおり、鱧の旨味よりも出汁の旨味で食べさせる印象。
軽く利いた酢の酸味の塩梅に、こちらの酒肴の巧さを感じる。
真子鰈とナガスクジラの尾の身
白眉。いやはや、驚嘆!
真子鰈は極めて旨味が強く、香りも鮮烈。
ぷりっぷりな食感は、白身の悦楽にどっぷりと浸かる事が出来る。
昨今白身まで長時間寝かせたり熟成したりするが、本当に旨い白身はこうして頂くべき。
ナガスクジラの尾の身の刺し身も、希少性を超えて素晴らしい味わいを記憶させる。
ビシュッと溶ける上質な脂はクドいところが無く、淡にして玄妙。
鯨の香りを微塵の嫌味も無く楽しませつつ、軽くほのかな鉄の風味がキリッと引き締める。
産地は勿論国産ではなく、アイスランドとの事。
尚、山葵は産地を伺うのを失念したが、自然な甘みと香りを有し柔らかな辛みが持ち味。
蒸し鮑の餡掛け
房州の黒鮑。これもまた上質!
鮑は火入れが完璧で、包丁を細かく入れており、香り、旨味、歯切れの三拍子が揃っている。
餡には浅蜊を出汁に用い、特有の旨味(コハク酸)が滋味を与え、非常に面白い。
ややとろみの付け方が強く、雑味になっていた点がマイナス。
ガリ
シャキシャキしており、シャープな辛味があるが、甘みも強い点が特徴。
これはシャリや仕事とのバランスを取られているのだと思われる。
真鯛
一貫目から、お造りの真子鰈に匹敵する印象を与えてくれる。
鯛固有の甘みが強い味わいのシャリと一体化…
このシャリに合う鯛とは、心底驚いた(一般論として、鮪に最も合うシャリは白身が苦手)。
朝から軽く寝かせたくらいか?
尚、前半戦、シャリの温度が気になった。
やや温度が低く、一体感を損ねるファクターになっていた。
しかし、途中からシャリを変えられたようで温度が少し上がった。
この辺りは徹底して頂きたい。
アオリイカ
ごく細かく包丁を入れ、ねっとりとした甘みと食感がシャリと一体化。
僕は鮨では墨烏賊が好きだが、こちらのシャリとはアオリの方が合うかも?と思わされる。
鱚
昆布〆。徹底的に強めに昆布を利かせており、
食感は引き締まり、昆布のグルタミン酸も浸透している。
本来淡い持ち味の鱚ながらにシャリとあいまって、どっしりとした存在感を提示。
鮪赤身
鮪は佐渡、100kgほど。
香りや鉄は夏鮪ならでは爽やかなものだが、やはり鮪はこちらのシャリに良く合う。
シャリと合わせる事で甘みが際立つ。
ただ、お弟子さんのお茶の差し替えのタイミングがなっていない。
鮪のタイミングでお茶を変えるのは定石。
鮪の強い風味、脂をサラッと流し、次に粋に接続するのが濃い目の粉茶の役割。
あまつさえ、温度もぬるかったが、次から補正されたので溜飲を下げる。
鮪中トロ
圧巻の味わい。
一言で述べると、恍惚。
突き抜けるほどの甘みで、シャリの酸味と塩気が完全に合致。
鮪大トロ
ねっとりした脂の大トロ。
シャリとのバランスでは中トロが上を行ったが、夏の鮪の面白さを十分感じさせてくれる。
小鰭
圧巻の仕事。これには、恐れ入った。
今は小鰭が最も弱い時期…
それにも関わらず、甘みと香りを強く引き立てつつ、小鰭特有のクセを消し去る〆の仕事。
かなり強めの〆加減だが、小鰭の魅力を全く損ねる事無く、むしろ小鰭を小鰭たらしめている。
シャリとのバランスにも目を瞠る。
個人的に、あらゆるお店の小鰭の中で、ベストか?と思わされる仕事であった。
ちなみに、小鰭の産地は天草。
小柱軍艦
海苔によってシャリが表情を変え、海苔の香りと旨味が小柱の甘みに寄り添う。
完璧な小鰭の後にかすまない、バランスの良い軍艦。
縞鯵
軽く漬けに。甘みと脂が半端無し。
そして、上質な縞鯵と協奏するシャリ。
雄々しい印象を与える一貫。
車海老
茹で上げで、温度はほんのり温かく、甘みをナチュラルに感じさせてくれる。
海老の味噌は濃厚で、軽い苦味も相まって印象深い味わい。
春子
この季節、このタイミングで春子とは、マニア的に面白い!笑
これもまた強い〆加減で、車海老の甘みの後に一度リセットしてくれる。
赤貝
口に運ぶ前から香りが鼻孔をくすぐり、舌に触れた瞬間に甘みが横溢する。
噛みしめると鮮烈な旨味がほとばしり、旨味の粒子たるや繊細かつ無尽蔵。
閖上の中でも特に上質なモノだと無条件で感じさせてくれる赤貝。
海胆
唐津の赤海胆。
濃厚な甘みと蝦夷バフ海胆丹よりも濃厚な食感が、シャープなシャリを抱擁する。
幸福な結婚。
鰹
鰹は、すきやばしの看板の一つ。
藁火で炙っており、一般的に考えるとは強めの燻香がたまらない。
すきやばしよりも強めに香りを付けている理由は明白で、シャリと合わせる為。
修行先の仕事を自身のシャリに合わせておられ、工夫を感じる。
ちなみに、生姜は乗せるのではなく噛ませているので、
香りを強く感じさせず風味を楽しませる仕事。
穴子
しっとりほろほろな穴子。
とろふわな煮穴子とは異なる食感で、これもまた抜群。
ほぼ全てのタネに対してシャリとのバランスに言及してきたが、最後まで抜かり無くシャリと合一させる仕事に感服した。
玉子
芝海老と大和芋を使用。
ふんわり感がありつつ、みっちり、しっとりしており、上質。
すきやばしでは玉子を焼かせてもらえるまで10年掛かると言うが、長い修行の道のりの果てにある透徹した仕事を感じさせてもらった。
最近、有名人や実業家が「修行不要論」を提示し、アカデミーでの「効率的なトレーニング」で長い修行に勝ると言っているが、ああいった言説はあくまでも部分的にしか当てはまらない事を味で体感した。
干瓢巻き(追加)
かなり強めに醤油を利かせ、食感をしっかり残した干瓢。
シャリの酸味、塩分と相まって、驚きを覚える干瓢(笑)
ただ、二番手さんの手によるものだったが、シャリの空気含有率や切りつけの甘さが極めて無念。
酒肴に握り14貫、玉子、巻物半分を頂き、3万円ちょっと。
3万円と言う価格は当然高額ですが、頂いた感想としては妥当性が高い。
圧巻のタネのクオリティと仕事に払う価格としては高くはない。
価格は敬意と言い換えても良い。
最後に訪問してから値上げをされていると聞いておりましたが、さして気になりませんでした。
ただ、握りに対する満足度は極めて高いのですが、懸念される点は客層。
銀座の中でもバブリーな方が多い点は悩ましいです(笑)
せめてもうちっと上品に食べてくれたらなァ…と感じました。
店名:青空(はるたか)
シャリの特徴:赤酢と塩を利かせつつ、仕事と高度に調和するシャリ。
予算の目安:30,000円〜
TEL:03-3573-1144
住所:東京都中央区銀座8-3-1 銀座時傳ビル6F
最寄駅:新橋駅から220m、内幸町駅から320m
営業時間:17:00~24:00
定休日:日曜、祝日
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