こちらは南魚沼にある自称「田舎料理」のお店です。
建物は明治3年(1870年 or 71年)に建てられた茅葺きの田舎屋造りで、存在感と趣が半端ないです。
しかも、敷地内には樹齢1,500年(!)を超える巨大なケヤキが鎮座しております。
その雰囲気たるや圧巻。
訪れた瞬間に有無を言わさず心を惹きつける強い力があります。
九州の某鮨店の親方にオススメされて以来、数年越しとなる念願の訪問で、僕は山菜料理を求めて春に訪問しました。
建物は太い柱と梁、年季の入った壁が印象深い。
現代では資材的にも技術的にも再現不可能な建物なのではないでしょうか…
シンボルのケヤキは黄昏時と朝で表情を変え、ここで1,500年も人間の営為を見守って来たのかと考えると、畏敬の念を抱かずにいられません。
お料理のみのご利用もできますが、周囲の雰囲気、空気ごと味わうならば、宿泊がオススメです。
夕方から夜にかけて散策すると、空気の匂いの変化を味わえて、「ただ食べて帰る」のとは訳が違います。
また、朝食のお米の美味しさは群を抜いておりますので…
夕食も「田舎料理」を謳う割に洗練されており、必ずしも「田舎的」ではありません。
郷土料理なので「家庭的」な趣であるのは事実ですが、濃口醤油ベースの関東風の調理ながらに塩気は抑制されております。
また、甘みや酸味が行き過ぎておらず、「田舎料理」とはいささか謙遜かと感じました。
ひとえに塩梅が良いです。
全部のお料理が抜群とは言いませんが、堂に入った魅力的なお料理も多数あるかと思います。
特に【岩魚の焼きもの】は、他店には無い焼き方で楽しめました。
そして、【胡麻豆腐】や【朝食のご飯】など、水を用いた料理は格別。
「調理法」や「食材」ばかりを重視する向きがある現代において、「美味しい水の力」を感じさせてくれる御料理だと感じた次第です。
尚、こちらでコストパフォーマンスについて言及する方もいるかもしれませんので敢えて記載しますが、茅葺き屋根の張替えには膨大なコストが掛かります。
維持が困難であるために潰してしまう事が多い現代、宿業を営み家屋を残されていると考えると、決して高くはないのではないでしょうか。
豪奢な料理を求める方には微塵も響かないかと思いますが、日本料理、郷土料理を食べこんでいる方にはヒットする料理かと思います。
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欅苑さんのお料理
頂いたお酒
緑川純米(4合瓶)2,500円
黄味小判、お薄
お薄は食前でもあるので、スッキリ味。
食前酒
緑川純吟。食前酒にしては気前の良い量!
これが緑川だったので、別オーダーのお酒も緑川にした次第。
先付
筍と若芽・木ノ芽の椀、玉子豆腐、山菜寄せ・胡麻酢味噌、山菜と帆立小柱のぬた、ウド黒胡麻和え。
冒頭から山菜好きならば興奮するラインナップ。
椀の吸い地は鰹の酸味が利いておりキリリとした味わい。
山菜寄せの山菜は、うるい、水菜、五月菜(とうな)、スナップえんどう、アスパラガスなどなど。
美しい見た目と、様々な食感が楽しい。
ぬたの山菜はウド、ワケギ、萱草(カンゾウ)
ウド黒胡麻和えは胡麻も甘みも上品な使い方。
ちなみに、お盆は代々伝わる年季の入った輪島塗。
八寸
胡麻豆腐、蕗の薹の胡麻味噌和え、山菜の煮物、アケビの蔓の新芽・木ノ芽、2種のコゴミの和えもの、がんもどき、自然薯の海苔巻き。
胡麻豆腐はとろっとした食感で、超滑らか。
そして、甘い!
水の良さを痛感した。
蕗の薹の胡麻味噌和えも地味ながら力作。
山菜の煮物の山菜は、筍、コゴミ、山ウド。
アケビの蔓の新芽とは珍しい。
アケビの実からは想像できぬ苦味が個性的。
2種のコゴミの和えものも面白い。
胡麻をしっかり用いた胡麻和えで、塩気もそれなりに利かせている。
紫の方はシャキシャキした食感で、コゴミらしいとろみが無い。
朝の散歩中、建物の裏手にて自生する姿を発見。
がんもどきは蛸や銀杏など非常に家庭的な具だが、大豆の風味があり、表面は香ばしくて魅力。
椎茸を利かせている。
自然薯の海苔巻きについては、説明では「山芋」との事だったが、明らかに自然薯であった。嬉しい。
ふわんふわん且つねっちりした食感は自然薯ならでは。
調理法も魅力的。
山葵のクオリティだけが残念である。
岩魚の焼きもの
岩魚は骨の硬い魚であるが、頭も楽勝でいける焼き方。
当初、一夜干しにしているのか?と思ったが、囲炉裏で1時間掛けて焼いているとの事。
身には凝縮感があり、肝が濃厚な旨さ。
振り塩の塩梅も良し。
山菜の天麩羅
タラノメ、コゴミ、コシアブラと言う主役級の山菜に加えて、蕗の葉。
都会の天麩羅店でも山菜は頂けるが、産地のお店だと鮮度とボリュームが段違い。
タラノメは鉄板の味わいで、コゴミとろんとした食感が魅力。
中でも矢張りコシアブラは香りが抜群!
蕗の葉は軽い苦みが持ち味。
お食事:筍ご飯、のっぺい汁、香の物
新潟県の【のっぺい汁】は他県のものとは異なり、会津の【こづゆ】に近い印象。
野菜を胡麻油で炒める事も、片栗粉でとろみを付ける事も無く、干し貝柱で出汁を取った煮物と言う趣だ。
野菜は、里芋、生キクラゲ、ナメコ、銀杏、絹さや、人参、エノキと種々多様。
器が立派な塗り物で重く存在感があったので伺ったところ、これのみ会津塗であった。
筍ご飯のお米はパラッと硬めに炊き上げられている。
具よりも米が旨く、甘い。
ここでも水が良いのか?と実感し、翌日正に痛感する事となる。
香の物は勿論のように手作りで美味しい。
特にキュウリの粕漬けは長期熟成されており味わい深い。
水菓子
抹茶寒天とイチゴ。
朝ごはん
朝からおかずが豊富で、しかも全て手作りと言うのは嬉しい限り。
中でも、ご飯が突出した桁外れの美味しさ。
大きなガス釜で炊くそうだが、格別!
香り、舌に触れた時の瑞々しい旨味が印象深い。
米粒は完全に立っており、噛みしめる喜びのあるお米。
自家栽培されているそうなので、紛れもなくここでしか頂けない味わい。
失われゆく日本の暮らしに触れられる、貴重なお店だと思います。
欅苑さんのお店の情報
欅苑(食べログのリンク)店名:欅苑(けやきえん)予算の目安:お料理のみ7,350円、1泊2食付き宿泊14,700円
最寄駅:五日町駅から3,100m
TEL:025-775-2419
住所:新潟県南魚沼市長森24
営業時間:11:30~15:00(入店は13:00まで)、17:00~21:30(入店は19:30まで)
定休日:不定休
※完全予約制です
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