酒ディプロマ(SAKE DIPLOMA)攻略マニュアル Day.7「日本酒における米と水」と「代表的な酒造好適米」

酒ログday7

こんにちは、鮨と日本酒をこよなく愛する、すしログ(@sushilog01)です。

前回は「速醸以外の酒母造り」について、説明しました。

今回のDay.7については、「日本酒における米と水」と「代表的な酒造好適米」について、説明します。

※本記事は2022年度のテキストである『SAKE DIPLOMA教本 Second Edition』(2020/3/1)に基づきます

日本酒における米

日本酒に使用されるお米は、アジア稲ジャポニカ種で、うるち米水稲です。

ジャポニカ種のもち米四段仕込みに使われることがあります。

籾から籾殻を取り去ったものが玄米で、精米した(磨いた)ものが白米(精白米)です。


酒造好適米の開発は、1904(明治37)年国立醸造試験所(酒類総合研究所の前身)で始まりました。

そして、1916年から10年間の理化学的な研究の結果、「酒造好適米」の概念が確立されたのです。

酒造好適米の要件

酒造好適米の要件は5つあります。

  1. 精米中に砕けにくい
  2. 米粒が大きい
  3. 心白がある
  4. タンパク質が少ない
  5. 軟質米である

順に説明していきます。

酒造好適米の要件:精米中に砕けにくい

お米の胚芽や表層部に含まれるタンパク質、脂肪、灰分は日本酒の雑味や着色に繋がります

よって高精白を行う必要があり、精米中に砕けると、表層部の成分が残ったり、大きさや形が不均一になるため、酒造りに負の影響を及ぼします。

酒造好適米の要件:米粒が大きい

高精白には大粒米が有利です。

米粒の大きさは「千粒重」で表されます。

「千粒重」は玄米粒1,000個分の合計重量で、約20〜30gが一般的です。

通常の飯米が20〜22gのところ、山田錦や雄町など多くの酒造好適米は26g以上となります。

ただ、例外もあり、八反系は26g以下でも良酒が醸されます。

酒造好適米の要件:心白がある

「心白」はお米の中心部にある白色不透明な部分で、デンプンの結晶体です。

隙間が大きく、光が乱反射するため白濁して見えます。

心白米は、麹菌の菌糸が入り込み酵素力の強い麹になりやすく、醪での溶解性も高い特徴を持ちます。

大粒心白米は「外硬内軟」でさばけの良い蒸米になります。


心白には主に3つの種類があります。

  1. 線状心白米:割れにくく、高精白に向く →山田錦・強力
  2. 球状心白米:割れ易く、吸水性・糖化性が高い →雄町
  3. 眼状心白米:割れ易く、吸水性・糖化性が高い

「腹心白」と呼ばれるお米は、精米時に割れ易く、無効精米歩合が高くなります。

酒造好適米の要件:タンパク質が少ない

お米のタンパク質は、デンプン、水分に次いで多い。

割合は玄米中7〜8%となる。

タンパク質含有率が高いと、吸水性が低下し、蒸米の消化性が悪化する。

そして、タンパク質が多いと、アミノ酸度が増し、雑味・着色・香味劣化の要因となる。


精米でもタンパク質は大きく減少せず、精米歩合70%でも4〜6%含まれる。

酒造好適米の要件:軟質米である

お米が軟らかいと、以下3つのメリットがあります。

  1. 精米時間が短い
  2. 吸水性が高い(洗米時)
  3. 消化性が高い(酒母や醪での)

お米のデンプン成分について

デンプンはお米の主要成分で、玄米重量の70%を占めます。

うるち米のデンプンは2種類で構成され、アミロペクチン(80%)アミロース(20%)となります。


アミロペクチンはブドウ糖との繋がりが枝分かれの多い房状で、アミロースは直鎖状となります。

アミロペクチンが多いお米は粘りが強く、アミロースが多いお米は粘りが弱い特徴を持ちます。

分かりやすい例としては、もち米はアミロペクチンが100%で、インディカ米はアミロースが極端に多いお米です。


ちなみに、お米のタンパク質は7~8%ほどです。


次に、「日本酒における水」について説明します。

 

日本酒における水

日本酒の80%は水で、残り20%はアルコール分、糖分、アミノ酸です。

日本酒造りに良質な水は必須です。

日本酒造りにおける水は、「醸造用水」と「瓶詰め用水」に区別されます。

  • 醸造用水:洗米、浸漬、仕込み、雑用
  • 瓶詰め用水:洗瓶、割り水

醸造用水は無味、無臭、無色透明が望ましく、多くの酒蔵は井戸水を濾過しています。


日本酒造りにおいて有効な成分と好ましくない成分は以下のとおりです。

  • 有効成分:カリウム、リン、マグネシウム、カルシウム
  • 好ましくない成分:鉄、マンガン、重金属類

有効成分は微生物の栄養源となり、麹菌や酵母の増殖を助けてくれます。


反対に、鉄は日本酒を褐色化させたり、熟成を進めて香味を悪くする効果があります。

好ましくない成分は水道水基準よりも低い基準が設けられていて、それぞれ0.02ppm以下とされています。

覚えておくべき名水2選

そして、歴史的に覚えておくべき名水が2つあります。

灘の宮水

江戸時代の後期に、魚崎(神戸市)と西宮に酒蔵を持つ、山邑太左衛門が発見した名水です。

発見年は1840(天保11)年

灘の宮水が高品質であった理由は、六甲山に振った雨水が伏流水となり、地層に貝殻を多く含むためです。


灘の宮水は人気が急上昇し、「宮水」と略され、「水屋」まで現れて、四国、九州、江戸に運ばれて売られるようになりました。


灘の宮水は硬水となり、造られるお酒は比較的酸が利いていてキレが良く、辛口が多いところが特徴。

それゆえに「男酒」と称されます。

成分的にリン、カリウム、カルシウム、クロール(塩素)などのミネラルに富み、鉄分が極めて少ない良質な水です。

伏見の御香水

もう一つの名水は、伏見の現・桃山御陵駅にある「御香宮神社」の名水です。

由来は平安時代の862年までさかのぼり、清和天皇が命名したとされます。


伏見の御香水の特徴としては、中硬水にあたり、灘の宮水よりも軟らかい味わいです。

なめらかで、きめ細かいことから「女酒」と称されます。

なお、伏見には他に6つの名水があり、「伏見の七つ井」と言われます。

日本酒と水と酵母と味の関係

最後に、水と酵母と味の関係について説明します。

日本酒造りにおいて、水に含まれるミネラルは重要です。

ミネラルが多いと、酵母の増殖が活発になり、結果的に発酵が促進されます。

発酵が促進されると、酸の生産量が上がります。


日本酒は性質的に酸が少ないため、酸がわずかに上がるだけで酸味の増加というよりも「味の引き締まり」として認識されます。

ミネラルを多く含む硬水で仕込まれた醪は、辛口になりやすい特徴を持ちます。

 

酒造好適米について

酒造好適米についての概要を説明していきます。

酒造好適米の品種は各都道府県によって決められ、農林水産大臣が毎年公示します。

2017(平成29)年は、107の品種が認定され、東京都と沖縄県を除く45道府県で育てられています。

醸造用玄米の等級について

醸造用の玄米は、整粒歩合によって等級が分類されています。

特定名称酒に使用できる玄米は、三等以上です。

  1. 特上:整粒歩合90%以上、被害粒・死米・着色粒5%以下、割合1.1%
  2. 特等:整粒歩合80%以上、、被害粒・死米・着色粒10%以下、割合20.5%
  3. 一等:整粒歩合70%以上、、被害粒・死米・着色粒15%以下、割合58.0%
  4. 二等:整粒歩合60%以上、、被害粒・死米・着色粒20%以下、割合11.6%
  5. 三等:整粒歩合45%以上、、被害粒・死米・着色粒30%以下、割合6.0%
  6. 規格外:整粒歩合45%未満、割合2.8%

特定名称酒に使用出来る醸造用玄米は三等以上なので、整粒歩合45%以上、、被害粒・死米・着色粒30%以下と言うことになります。


特上と特等は、ほとんどが兵庫県で生産されます(特上95%、特等74%)。

特上の都道府県ごとの順位は、兵庫県、山口県と続きます。

そして、特等は兵庫県、広島県(11%)、徳島県(3%)、岐阜県(2.3%)、山形県(1.8%)と続きます。

天候がおよぼす影響

言うまでもなく天候がお米、ひいてはお酒の味を左右します。

  • 天候不順:冷害となり、米の収穫量と等級が低くなる
  • 高温障害:猛暑により、未熟な米粒が増える

整粒歩合が下がり、割れ易いお米が増えてしまいます。


反対に、天候が良い場合は、収穫量が増え、等級も高くなります。

千粒重が増加し、粒張りが良く精米後に糠層が残りにくいお米になります。


登熟期(稲がみのる時期)の気温も重要です。

気温が高いと、アミロペクチンの鎖が長くなり、β化(α化したデンプンが戻る現象=老化)が早くなってしまいます。

結果として、醪での溶け残りが多くなります。

そして、清酒よりも酒粕の量が増え、酒質が軽快になります。

逆に冷害年は、タンパク質が増加します(アミノ酸度が増し、雑味・着色・香味劣化の要因となる)。


しかし、日本酒造りではお米の性質に応じて製造工程で工夫を重ね、毎年同じ味にすることを目指します。

この点において、ワインのヴィンテージの概念が意識されない次第です。

酒造好適米の精米について

精米においては、どのような形にお米を磨くかが重要です。

精米には4つの種類があります。

  1. 球形精米:一般的、丸く削る→必要なデンプンを削り、不要タンパク質が残る可能性
  2. 原形精米:長さ、幅、厚みを全て均一割合に削る→厚さのタンパク質が残る
  3. 扁平精米:表面から等しい厚さに削る(等厚精米)→タンパク質が残りにくい
  4. 超扁平精米:さらに扁平度合いを高め、不要成分の極小化を目指す精米→時間がかかり、割れ易い

精米時間は一般的に、玄米600kg(10俵)を精米歩合70%まで磨くのに10時間50%にするには50時間かかると言われます(竪型精米機)。

扁平精米は60%精米に75時間かかると言われ、原形精米の3倍の時間と電気代がかかります。


竪型精米機は技術革新が行われていて、インバータによる回転速度の制御、金剛ロールの工夫、低温精米、低圧力精米などが実現されています。


実は、精米歩合には誤差が生じるため、単純に数字だけでは比較が出来ません。

原料米の作柄や精米機の性能、精米の技術力で誤差が生じる次第です。

特に高温障害の年には米質がもろくなり、精米時の砕米が増え、誤差が大きくなります。

  • 見掛精米歩合(%)=精米後の白米重量(kg)÷精米前の玄米重量(kg)×100
  • 真精米歩合(%)=精米後の白米の千粒重(g)÷精米前の玄米の千粒重(g)×100
  • 無効精米歩合(%)=真精米歩合−見掛精米歩合

一般的に公表される数字は「見掛精米歩合」です。

精米時の砕米などが考慮されていません。


次に、酒造好適米について説明します。

 

酒造好適米の主要生産地

酒造好適米の主要生産地について、説明します。

酒造好適米の主要産地ランキング

酒造好適米の主要産地のベスト10については、下記のとおりです(2017年)。

1位兵庫県28,377トン
2位新潟県12,316トン
3位長野県6,294トン
4位岡山県6,283トン
5位秋田県4,821トン
6位富山県4,496トン
7位広島県4,187トン
8位福井県3,788トン
9位山形県3,527トン
10位山口県2,714トン

酒造好適米の生産量ランキング

そして、生産量の多い酒造好適米のランキングが以下のとおりです。

1位山田錦38,431トン37.5%
2位五百万石20,564トン20.0%
3位美山錦7,018トン6.8%
4位雄町2,873トン2.8%
5位秋田酒こまち2,417トン2.3%
6位八反錦1号2,027トン
7位ひとごこち1,808トン
8位出羽燦々1,729トン
9位吟風1,576トン
10位越淡麗1,357トン

各都道府県の酒造好適米

そして、覚えるべき都道府県と酒造好適米は以下のとおりです。

北海道吟風、彗星、きたしずく
青森華吹雪、華想い、豊盃
岩手ぎんおとめ、吟ぎんが、結の香
秋田秋田酒こまち、吟の精、美郷錦、一穂積、百田
宮城蔵の華
福島夢の香
山形出羽燦々、出羽の里、羽州誉、亀ノ尾、雪女神、民間:酒未来、龍の落とし子、羽州誉、亀粋
新潟五百万石、越淡麗
長野美山錦、ひとごこち、金紋錦、しらかば錦、たかね錦
富山五百万石(南砺産)、雄山錦、富の香
三重伊勢錦、神の穂
滋賀玉栄
京都
兵庫山田錦、愛山、フクノハナ
広島千本錦、八反、八反錦1号・2号
岡山雄町
山口西都の雫
高知吟の夢、風鳴子、土佐麗
福岡夢一献、吟のさと

酒造りに定評のある飯米

そして、酒造好適米ではなく、酒造りに定評のある飯米は以下のとおりです。

北海道ゆきひかり
宮城ササニシキ
福井/滋賀/山口日本晴
広島/山口中生新千本
岡山アケボノ、朝日
高知アキツホ
香川オオセト
愛媛松山三井
佐賀/長崎レイホウ

 

テストで重要な都道府県のデータ

酒ディプロマ(SAKE DIPLOMA)のテストで重要な都道府県のデータをまとめました。

都道府県日本酒特定名称免許所(蔵)数好適米
青森県3,863kl(20位)73%(14位)23(34位)1,418t(16位)
宮城県6,784kl(14位)96%(1位)36(23位)1,078t(19位)
秋田県14,769kl(5位)53%(32位)42(16位)4,821t(5位)
山形県7,839kl(10位)83%(8位)56(7位)3,527t(9位)
福島県9,867kl(7位)60%(28位)70(5位)2,341t(11位)
栃木県8,417kl(9位)28%(39位)40(19位)1,113t(18位)
長野県7,359kl(12位)59%(29位)86(3位)6,294t(3位)
新潟県33,757kl(3位)69%(20位)99(1位)12,316t(2位)
富山県4,064kl(19位)86%(7位)24(33位)4,496t(6位)
石川県5,731kl(16位)82%(9位)42(16位)1,455t(15位)
静岡県3,777kl(21位)88%(5位)30(27位)845t(25位)
愛知県12,328kl(6位)25%(41位)52(11位)431t(31位)
京都府74,691kl(2位)18%(44位)54(9位)1,063t(20位)
兵庫県112,727kl(1位)25%(40位)89(2位)28,377t(1位)
奈良県3,194kl(26位)72%(15位)40(19位)305t(32位)
岡山県2,177kl(33位)64%(25位)53(10位)6,283t(4位)
広島県7,120kl(13位)56%(30位)60(6位)4,187t(7位)
山口県7,423kl(11位)90%(2位)46(13位)2,714t(10位)
高知県4,517kl(17位)66%(23位)20(37位)236t(33位)
福岡県3,533kl(22位)61%(27位)73(4位)1,706t(14位)


以上で、日本酒造りにおけるお米についての説明を終えます。

Day.8以降は、都道府県ごとの酒造好適米について、さらに細かく見ていきます。


日本酒大好き、すしログ(@sushilog01)でした。

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