こんにちは、鮨と日本酒をこよなく愛する、すしログ(@sushilog01)です。
前回は「上槽」について、説明しました。
今回のDay.6については、「速醸酛酒母」以外の酒母造りについて説明します。
具体的に説明する酒母は以下の5点です。
- 高温糖化酒母
- 生酛
- 山廃酛
- 菩提酛
- 秋田流生酛
「生酛」とは、江戸時代初期に成立した伝統的な手法です。
そして、「山廃」は1909(明治42)年に成立しました。
「生酛」に含まれる「山卸」という作業を廃止したから「山卸廃止酛」=「山廃」です。
現在のシェアは、速醸90%、山廃9%、生酛1%ほどになっています。
まずは、「高温糖化酒母」から説明します。
※本記事は2022年度のテキストである『SAKE DIPLOMA教本 Second Edition』(2020/3/1)に基づきます
タップできる目次
酒母:高温糖化酒母
「高温糖化酒母」は、高温で酒米を糖化させる方法です。
- 糖化を短縮し、速醸酛の半分の1週間で完成できる
- 麹の酵素がより活性化する55℃で蒸米を溶かし、糖化させる
- その後、冷却時に乳酸を添加する
- 日本酒酵母を添加して育成する
速醸酛は前半1週間で糖化させる方法ですが、「高温糖化酒母」ではそれを短縮します。
55℃で生きられる微生物はほとんどいないので、衛生面で優れているメリットもあります。
しかし、デメリット(リスク)も2点あります。
55℃よりも高くなりすぎると酵素が失活して、糖化が失敗してしまいます。
また、55℃よりも低すぎると雑菌汚染してしまいます。
さらには、糖化し終わった蒸米と麹は、冷管に餅のようにくっつくので、煩雑な作業が必要です。
酒母:生酛(きもと)
「生酛系酒母」は、現存する伝統的な製法です。
- 江戸時代初期に成立
- 乳酸菌を用いて酒母に乳酸を加える
- 5〜9℃で行う=「寒酛」と呼ばれる所以
- 有用乳酸菌は7℃で活性化し、悪玉は10℃以上から活性化するため
- 高温(30℃)下での生存率が高く、アルコール耐性が高い酵母が育まれる
醪日数の末期でも比較的旺盛な発酵が行われ、濃醇かつ味わい深いお酒になる特徴があります。
「生酛系酒母」の工程をまとめると、以下のとおりです。
工程日 | 1 | 1.5 | 1.5〜 | 2〜 | 5〜 | 10~ | 15〜 | 25〜 |
工程名 | 酛立て(仕込み) | 山卸 | 折り込み | 酛寄せ | 打瀬 | 暖気入れ | 酵母 | 枯らし |
微生物 | 硝酸還元菌・野生酵母 | 同左 | 同左 | 同左 | 硝酸還元・乳酸菌 | 乳酸菌 | 清酒酵母 | 同左 |
温度 | 6〜7℃ | 5~6℃ | 8〜15℃ | 16〜23℃ | 7〜8℃ | |||
備考 | 蒸米・麹・水を混ぜる | すり潰す | 合わせて撹拌 | 酒母タンクに投入 | 低温で撹拌 | 温度上げ | 冷却 |
15日目以降については、伝統的には蔵付き酵母を引き込んで増殖させていましたが、現代では清酒酵母を添加することもあります。
その段階で、乳酸菌は酵母が生成するアルコールで死滅します。
生酛1日目(酛立て・山卸・折り込み)
生酛1日目の流れは以下のとおりです。
- 半切り(桶)で麹、蒸米、仕込み水を混ぜる酛立て(仕込み)
品温は5〜6℃で、仕込み水は4〜5℃、蒸米は40℃ - 数時間後に膨らんだら数時間おきに混ぜる
- 半日経過したら櫂ですりつぶす山卸(酛摺り)を行う(桶1つに12〜15分)
- 山卸:3時間後に二番摺り、さらに3時間後に三番摺り(桶1つに5〜7分)
- 半切り桶2個を1つに合わせ(折り込み)、へらで撹拌
生酛2~10日目(酛寄せ・打瀬・暖気入れ)
生酛2〜10日目の流れは以下のとおりです。
- 翌日、翌々日に半切り桶を合わせていき、最後に全てを酒母タンクに投入(酛寄せ)
- 3日ほど5〜6℃の低温で撹拌し、蒸米を溶かす(打瀬)
- 打瀬の過程で乳酸菌が乳酸を生み出す
- 打瀬の後に暖気樽で暖気入れを行い、1日1℃ほど温度を上げていく(8〜15℃)
生酛15日目~
ここで、酵母を添加する or しないの選択を行います。
いずれにせよ乳酸菌は酵母によって全滅し、乳酸と酵母のみが残る酒母となります。
「打瀬(5日)」以降の、菌の栄枯盛衰については以下の通りです。
- 還元硝酸菌が水の硝酸塩を分解し亜硝酸を生成
- 亜硝酸が不要な野生酵母を抑制
- 有用乳酸菌が動き出し乳酸を生成
- 暖気入れ(10日~)で糖化を進める、乳酸も活性化
- 亜硝酸と乳酸の共存により産膜酵母(臭みの原因)と野生酵母などの有害微生物は死滅
※乳酸は亜硝酸に強く、硝酸還元菌は乳酸に弱い - 硝酸還元菌、亜硝酸、乳酸菌が乳酸に倒される
次に、「山廃」の説明に移ります。
酒母:山廃酛(やまはいもと)
「山廃」とは「山卸廃止酛」を意味し、1909(明治42)年に国の醸造試験所で実用化されました。
創始者の名は、嘉儀 金一郎氏。
山卸が廃止された理由は、言うまでも無く大変だったからです。
また、腐造を無くす目的もあります。
山廃酛の最大の特徴は、山卸を行わず「水麹」で酒母を作るところです。
水麹は麹の酵素を浸出させ、仕込み後なるべく早めに蒸米を溶解・糖化することが可能です。
水麹は冷たい仕込み水に麹を混ぜたものです。
山廃酛の流れ
山廃酛では、水麹を用いて酒母を造ります。
- 水麹:仕込みの2〜4時間前に、3〜5℃に冷やした仕込み水を酒母タンクに入れて、
麹を投入、3〜4人で激しく迅速に櫂入れ - 15〜20℃に下げた蒸米を投入し、品温9℃ほどを目指す
- ※10℃以上では早湧きのリスクあり、5℃より低いと硝酸還元菌や乳酸菌が阻害される
- 汲みかけ:3〜4時間後に行う
※生酛には無く速醸にはあるプロセス - 荒櫂:汲みかけ後、均一化と品温急降下を目指す櫂入れ(5〜6℃に)
櫂入れは、2~3時間に2回行います。
- 荒櫂:桶1つに12〜15分
- 二番摺り:2~3時間後に、桶1つに5〜7分
- 三番摺り:2~3時間後に、桶1つに5〜7分
あまりに櫂を入れ過ぎると糊状になり、酵素作用が阻害される恐れがあるそうです。
よって、櫂入れの時間や強さ、回数は物料の状態に合わせて加減します。
この後の流れは「生酛」と同じで、打瀬(乳酸菌が乳酸を発生)、暖気入れ、酵母添加、枯らし、となります。
次に、他の酒母造りの手法を紹介します。
菩提酛(ぼだいもと)
「菩提酛」とは中々いかめしい名前です。
それもそのはず、現存する最古の酒造技術となります。
そして、「菩提酛」で造られたお酒の名前は「菩提泉」。
菩提山正暦寺で造られたお酒です。
成立したのは、15世紀(室町時代中期)とされます(『御酒之日記』)。
菩提酛のプロセス
- 米の1割を炊き、残り9割の米の中に埋めて、水を加える
- 3日後、乳酸菌が増殖して酸性になり、酵母も増えて泡がぽつぽつ現れる
- ザルで漉して、生の米は蒸す
- 酸性になった水に、麹、蒸米を混ぜて仕込む
「菩提酛」は一段仕込み、酒母造り=酒造りでした。
そして、「菩提酛」は「諸白造り」となる点も画期的でした。
諸白造りは、麹米も掛米も白米を用いて造る手法です。
それまでは麹米=玄米、掛米=白米の「片白造り」が一般的でした。
現在、奈良県は「日本酒発祥の地」として売り出していて、蔵元10軒強が「菩提酛」による酒造りを復元しています。
秋田流生酛
そして、次は「秋田流生酛」を紹介します。
秋田流生酛は名前の通り、秋田県伝承の酒母造りです。
秋田流生酛の特徴
- 「生酛」だが酛立てに半切り桶を用いず、山廃酛と同様に1本の酒母タンクで行う
- しかし、「生酛」なので山卸は行う
- 山卸は人手ではなく、電動撹拌機を用いて、しっかりと溶解・糖化させる
- 仕込み温度は14〜15℃と高温
仕込み温度が高いため、早湧きにならないよう総ハゼ麹(麹菌が米の中心まで入った酒母麹)を用います。
そして、木製暖気樽ではなく電熱行火で温度調整します。
速醸・生酛・山廃のプロセスまとめ
速醸・生酛・山廃のプロセスをざっくりまとめると下記のようになります。
各々の違いは、乳酸使用の有無と、酵母添加の有無もしくは添加のタイミングとなります。
工程日 | 1 | 1.5 | 2 | 3〜7 | 7〜9 | 10〜13 | 14〜 | 15~ | 25〜 |
速醸 | 水麹・仕込み・汲み掛け | 打瀬 | 膨れ誘導→膨れ | 湧付き→湧付休み | 分け | 枯らし | |||
速醸品温 | 7〜8℃ | 8〜14℃→15℃ | 17℃→20〜22℃ | 20〜23℃ | 10℃ →7℃ | ||||
生酛 | 酛立て | 山卸・折り込み | 酛寄せ | 打瀬(5日~) | 暖気入れ(10日~) | 酵母 | 枯らし | ||
生酛品温 | 6〜7℃ | 5~6℃ | 8〜15℃ | 16〜23℃ | 7〜8℃ | ||||
山廃 | 水麹 | 荒櫂・櫂入れ・汲み掛け | 打瀬 | 暖気入れ | 酵母 | 枯らし | |||
山廃品温 | 5〜6℃ | 9℃ | 5~6℃ | 8〜15℃ |
以上が、日本酒造りのほぼ全てになります。
Day.7以降は、日本酒のお米について細かく見ていきます。
日本酒大好き、すしログ(@sushilog01)でした。
本記事のリンクには広告がふくまれています。