こんにちは、鮨と日本酒をこよなく愛する、すしログ(@sushilog01)です。
今回は今田酒造本店【富久長と】をテイスティングします。
四川料理に合わせる日本酒として開発された意欲作!
味わいは予想以上に素晴らしく、本当に四川料理と合うので驚きました!
今回はテイスティングノート以外のボリュームも増やした、ロングバージョンでお届けします!
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「今田酒造本店」さんは広島県安芸津町にある酒蔵で、創業を1868年(明治元年)にさかのぼります。
「広島県安芸津町」は広島県にゆかりのある人以外に馴染みがないかもしれませんが、日本酒好きであれば知っておくべき重要な土地です。
なぜなら今や誰もが知る吟醸酒を造るための「吟醸造り」は「広島県安芸津町」で誕生したからです。
のっけから少し脇道に逸れてしまいますが、少し詳しく解説します。
広島県は一般的に水の硬度が低い軟水で発酵力が低いため、日本酒造りには不向きな土地とされてきました。
しかし、「広島県安芸津町」に生まれ、後年「天才醸造家」と呼ばれる三浦 仙三郎先生が酒造りの歴史を変えました。
1898年(明治31年)に、軟水の性質を活かした低温長期発酵醪による「軟水醸造法」を確立したのです。
酵素力の強い麹造りと低温長期発酵醪による酒造法は正に画期的で、日本酒造りの歴史を変えました。
そして、「軟水醸造法」を駆使する「広島杜氏」は全国屈指の杜氏集団となっていきます。
結果として、1907年(明治40年)に開催された「第1回清酒品評会」では、広島県の酒蔵が劇的なデビューを果たしました。
伝統的に銘醸地と呼ばれた灘(兵庫県)、伏見(京都府)の酒蔵を圧倒し、優勝(優等1等)は【龍勢】を醸す「藤井酒造」。
さらに、広島県の酒蔵は優等2点、1等18点も獲得し、受賞率74.4%という圧巻のスコアを記録しました(全国の平均受賞率は32.8%で、兵庫県は57.6%)。
その後、広島県は銘醸地の仲間入りを果たし、酒蔵が密集する西条は「日本三大名醸地」と呼ばれるように。
協会酵母3号、4号、5号が分離されたのは何れも広島の酒蔵です(ちなみに、これらは現在は頒布されておらず、頒布されている最古の協会酵母は6号酵母、言わずと知れたNo. 6の新政酵母です)。
さらには、広島の精米機メーカーである「佐竹製作所」が高精白を可能とするハイスペック精米機を開発。
広島で誕生した低温長期発酵醪と高精白可能な精米機こそが、現在の「美味しい日本酒」の礎になっているのです。
そして、「今田酒造本店」さんは、広島杜氏の伝統芸である吟醸造りを継ぐとともに、新たなチャレンジを行い続ける日本でも大変魅力的な酒蔵です。
1997年にアメリカ、香港への輸出を開始した点は先見性が高く、現在も海外で高評価を獲得しています。
現在の蔵元は今田 美穂さんで、杜氏も務める蔵元杜氏です。
2000年から杜氏として酒造りを行っておられるので、長いキャリアを持つ職人さんだと言えます。
また、「今田酒造本店」さんを語る上で忘れてはならないのが「八反草」です。
これは「草」と付きますが、酒米の品種です。
「八反草」は今も広島県を代表する酒米である「八反系」最古の在来品種ですが、100年以上忘れ去られていました。
消滅寸前だった酒米ですが、「今田酒造本店」さんがひと握りの種もみから少しずつ増やし、2001年から復活栽培に取り組まれて今に至ります。
有名な『夏子の酒』に登場する「亀ノ尾」や、隣県・岡山の酒米「雄町(二本草)」と同じく「幻の酒米」と呼んで過言ではない「復活の酒米」です。
そして、2017年には【富久長 八反草 純米吟醸】が「第1回フランスKURA MASTER」で「プラチナ賞トップ10」を受賞しました。
ちなみに、蔵元杜氏の今田 美穂さんは、2020年にイギリスBBCの”BBC 100 Women“に日本人として唯一選ばれ、2022年にはアメリカ『フォーブス』誌の”50 over 50 Asia“に選ばれる快挙も果たしておられます。
「今田酒造本店」さんは伝統を踏襲しつつ、新たな酒造りも行っておられるところが魅力で、最たる例が【海風土】です。
これは広島が誇る牡蠣に合うよう、レモンを思わす酸味を強調したお酒です。
日本酒では一般的に黄麹が使われるところ、焼酎造りで使われる白麹を用いることでレモンと同じクエン酸を生み出す極めて爽やかな日本酒です。
しかし、爽やかかつ13%の低アルコール日本酒でありながら味わいがしっかりしているので、薄っぺらくありません。
これは「日本酒が苦手」と言う人に「現代の日本酒が美味しいこと」を伝える上で有用な一本だと思います。
僕は「中華と日本酒のペアリング会」の際に使わせて頂いたことがあります。
【富久長と】は「今田酒造本店」さんが2年の歳月をかけて開発した日本酒銘柄です。
中国への輸出用のお酒として企画され、しかも「四川料理に合わせられる日本酒」を目指されました。
これは、日本酒のペアリングを考えている人には衝撃的なコンセプトではないかと思います。
四川料理で最も有名な味覚である「麻辣(いわゆる辛シビ味)」は味覚への影響が大きく、水でさえ味が変わったように思わされる強烈な味なので。
個人的に、日本酒で合わせるのが最も難しい味覚だと思います。
一般的には麻辣味を御す場合には、日本酒が持つ甘味や熟成のコクを被せて、要は「補完ペアリング」を行う方向性を考えがちだと思いますが、「今田酒造本店」さんは酸味で切る「マスキングペアリング」の方向性で酒質を設計された、と聞きました(結果的には、味覚の調和、補完などマスキング以外の効果もありました)。
テンションが上がらざるを得ません。
とは言え、中国輸出用なので入手出来ないと考えていましたが、なんと「UTAGE」にて数量限定販売されました。
速攻で注文して、四川料理と合わせてみたのが、今回のレポートになります。
なお、ラベルについては、中国市場を意識した独特で明るいデザインになっています。
中国人は丸みを帯びたひらがなを好む傾向が強いので、斬新かつ愛着が湧くデザインだと思います。
ちなみに、「UTAGE」ではYouTubeライブが開催されました。
詳細を知りたい方は是非とも視聴してみてください。
それでは、【富久長と】のレビューに入ります。
特別編として書いたので、前置きが長くなり恐縮です。
テイスティングノートに移ります。
外観については、透明感があり、クリスタルがかったやや淡いイエローの色調です。
ほのかにゴールドを含んでいて、気品を感じます。
香りの第一印象については芳醇で、強いメロンやマスカットやライチなどを感じた後に、グレープフルーツの果物由来の酸味や苦味と生クリームやヨーグルトなどの乳製品由来のコクや酸味が見事に、それも濃密に調和します。
そして、特徴的な香りは軽い丁字(クローブ)!
さらに、バニラ香が印象的です。
フィニッシュにはかすかなミネラル香があり、お米由来は極々弱いです。
単に爽やかなだけでなく、複雑な香りがある、絶妙な日本酒です。
今話題の香気成分「4mmp」の日本酒よりも複雑な香りを持っています。
味わいについては、やや強い第一印象です。ただ、「強い」と言っても苦味ではなく、酸味によってパンチを感じます!
上品な甘味を、きめ細かくシャープな酸味が瞬時に引き締め、ベースにコクを与える苦味がじんわりと広がり、味を支えます。
酸っぱすぎないのは苦味と甘味のバランスのおかげ。
【海風土】よりも酸味が印象的ですが、やはりバランスが良いのは見事!
バランスは溌剌として豊潤で、余韻はやや短めです。
トータルとして、レモンだけでなく梅酒を感じさせる優雅な酸味が印象に残ります。
実に飽きが来ない酸味です。
紛れもなく四川料理に合います。
麻辣味に全く問題なく合うのは凄い!!
本当に驚きました!
一般的な日本酒の純米酒もしくは本醸造と合わせると甘味が立ち、味覚的にもたつくことを再認識します。
あるいは、寝かせた山廃純米なども相性がバッチリですが、旨味や甘味を合わせる方向性で紹興酒に近いペアリングとなります(つまり想定内に収まります)。
【富久長と】は酸味が走りつつ、甘味と苦味があるため「日本酒ならでなペアリング」が成立します。
四川料理の辛味に酸味が負けないので合う!
麻辣だけでなく、「コクと甘味がある辛味」にも合わせられる秀逸な日本酒です。
実は、同時にワインも試してみましたが、酸味で似た方向性を狙えても、麻辣味には負けました。
お米由来の甘味、旨味の強さを実感して、麻辣味に合うお酒は日本酒だ!と強く思った次第です。
今田酒造本店【富久長と】のスペックについては、以下のとおりです。
- 醸造元(製造者):今田酒造本店(広島県市)
- ブランド名:富久長と
- 特定名称:非公開
- 原材料:米(国産)、米こうじ(国産米)
- 原料米:広島県産米
- 精米歩合:非公開 ※精米手法は佐竹製作所の新技術「真吟精米」による
- 酵母:非公開
- アルコール度:12%
- 日本酒度:非公開
- 酸度:非公開
- 価格:720ml・3,300円
今田酒造本店【富久長と】については、中国輸出用なので入手は出来ません。
将来的に日本でも発売されることを強く願いましょう(笑)
テイスティングの技量を上げて行きたい、すしログ(@sushilog01)でした。
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