酒ディプロマ(SAKE DIPLOMA)攻略マニュアル Day.3「酵母」と「酒母(酛)」

酒ディプロマ03

こんにちは、鮨と日本酒をこよなく愛する、すしログ(@sushilog01)です。

前回は酒米の「洗米〜蒸きょう〜製麹」について、説明しました。

今回のDay.3については、「製麹」の次のプロセスである「酒母(酛)」に入ります。

  • 酒母(酛):米麹掛米、酵母、乳酸、水

「酒母(酛)」は、一言で述べると「元気な酵母を大量発生させる作業」です。

すしログ
すしログ

このあたりから一気に難しくなるので、気を引き締めて行きましょう!

「一麹、二酛(酒母)、三造り(醪)」と言われますが、実際には「酒母が最も重要」とも言われます。

難しい反面、酒造りにおいてアツいプロセスが「酒母」だと思います。

※本記事は2022年度のテキストである『SAKE DIPLOMA教本 Second Edition』(2020/3/1)に基づきます

日本酒の造り:酵母

酵母とは、「母細胞から娘細胞が出芽し、分裂することによって増殖する微生物」です。

日本酒造りには「清酒酵母」が必須で、「酒母(酛)」を造る時に使用されます。

酵母の増殖は4つのフェーズに分けられ、誘導期、対数増殖期、定常期、死滅期となります。


日本酒造りでは、菌を用いて発酵を行うため、pHの数値も重要です。

pHは7.0が中性で、値が小さいと酸性、大きいとアルカリ性です。

水道水は6.5、血液は7.4,海水は8.0〜8.5です。

そして、お酒に関わるpHの関係は以下のとおりです。

  • 清酒酵母:pH4.0〜5.0(酸性側の生育限界pH3強)
  • 醪:pH4.2ほど ※ワインはpH3.5弱
  • 乳酸菌:pH3.5以上
  • 一般細菌:pH7.0(酸性側の生育限界pH5.0〜5.5)
  • カビ:pH5.0〜6.5(酸に強いが液体中では生きられない)

上記のように、酒造りはpH5.0以下の環境で行われます。


また、日本酒に関わる菌類が生育可能な温度については、以下のとおりです。

  • 微生物:30℃
  • 清酒酵母:8〜17℃
  • 焼酎酵母:34℃ ※クエン酸が微生物を殺すため発酵可能

清酒酵母について

清酒酵母の特徴については、以下のとおりです。

  • 低温に強い
  • アルコール度数18〜20%まで生存可能 ※ワインは13〜15%
  • 2万倍に増え、醪1gに対して2億個にも達する

現在は日本醸造協会が頒布する「きょうかい酵母」を使用することが一般的です。


きょうかい酵母とは

  • アンプル1本に200億個
  • 米700~1,500kg、一升瓶830~1,660本の純米酒を造れる

以下はきょうかい酵母に関して、最低限覚える情報です。

  • 1895(明治28)年 Dr. 矢部 規矩治が清酒酵母を初めて分離
  • 1904(明治37)年 国立醸造試験所が設立
  • 1906(明治39)年 灘「櫻正宗」の酒母から清酒酵母を分離
    きょうかい酵母1号として頒布開始
  • 1935(昭和10)年 6号、新政酵母:発酵力、穏やかで澄んだ香り、淡麗
  • 1946(昭和21)年 7号、真澄酵母:発酵力、華やかな芳香、最多販売数
  • 1953(昭和28)年 9号、香露酵母:吟醸酵母の定番、まろやかな吟味ある芳香
  • 1952(昭和27)年 10号、明利小川酵母:低温長期醪、酸少なく淡麗で吟香高い
  • 1991(平成3)年 14号、金沢酵母:酢酸イソアミル、酸少ない
  • 1990(平成2)年 1501号、秋田流花酵母:カプロン酸エチル、酸少ない
すしログ
すしログ

覚えるべき事項が多くて絶望を覚えますが、「かがた屋酒店」さんの語呂合わせが中々個性的です。

末尾に「01」がつくものは「泡なし酵母」で、1億個に1個の変異株を分離、育成したものです。

「泡なし酵母」のメリットは以下の3点です。

  1. 醪発酵の高泡期間中に泡消し機を作動しなくて良い
  2. 泡立ちの量を見越して仕込み量を減らさなくて良い
  3. 仕込みタンクの洗浄が楽

逆に、「泡あり酵母」を選択する蔵は、以下を重視しています。

  1. 泡の表情変化で発酵を確認する
  2. 泡があることで生まれる微生物の環境を重視する

各地での酵母開発

「きょうかい酵母」だけでなく、各都道府県の醸造試験センターや、蔵元、大学などでオリジナルの酵母が開発されています。

さらに、地元のお米や水と組み合わせることで、完全に独自の地酒を造ろうとする流れが活発化しています。

以下に代表的な各地の酵母を紹介します。

  • 熊本県:熊本酵母KA-1
  • 秋田県:秋田流花酵母AK-1(1990年きょうかい1501号)
  • 宮城県:宮城酵母MY-3102
  • 山形県:山形酵母KA
  • 長野県:長野アルプス酵母(1990年代に一躍人気に)
  • 静岡県:静岡酵母HD-1
  • 高知県:高知酵母KW-77
  • 広島県:広島21号酵母
  • 蔵元が培養する「蔵付き酵母」
  • 産学連携による「花酵母」
  • ワイン酵母

「花酵母」は農大の中田久保氏が分離したものが主流です。

桜、コスモス、ナデシコ、苺など、30種類ほどの酵母が生み出されました。

奈良県の「ナラノヤエザクラ酵母」や、山口県の「やまぐち・桜酵母」なども生まれています。

吟醸酒の香り成分と様々な酵母

吟醸酒は磨き60%以下で、しかも10℃以下の低温環境で造られます。

そこで、香気成分が発生し、「吟醸香」として知られます。

中でも重要な香り成分は以下の2つです。

  • カプロン酸エチル:リンゴ、洋ナシのような、爽やかな香り
  • 酢酸イソアミル:バナナ、メロンのような、甘やかな香り

これらの香気成分は酵母によって変わります。

新しいきょうかい酵母

香気成分に着目し、「香り酵母」として開発された酵母が以下のものです。

  • セルレニン耐性酵母:カプロン酸エチルが大幅に増加する、カプロン酸エチル高生産酵母

「セルレニン耐性酵母」で造られたお酒は高温に弱いため、低温貯蔵での流通や保管が徹底されるようになりました。


酢酸イソアミルを高生産する酵母もあり、以下のとおりです。

  • 1601号:少酸性酵母、カプロン酸エチルを高生産
  • 1701号:高エステル生成酵母、酢酸イソアミルに加えてカプロン酸エチルも高生産
  • 1801号:高エステル生成酵母、1701号よりも酢酸イソアミルが穏やか(2006年〜)
  • KArg1901:尿素非生産性高エステル生成酵母。カプロン酸エチルが1801号よりも穏やか(2014年〜)
  • No. 28:リンゴ酸高生産性酵母、コハク酸少
  • No. 77:リンゴ酸高生産性酵母、カプロン酸エチルを高生産

上記はすべて「泡なし酵母」になります。


それでは、いよいよ酒母造りに入ります。

 

日本酒の造り:酒母

酒母(酛)は「麹米に、掛米(蒸米)、清酒酵母、仕込み水、乳酸を加えたもの」です。

酒母と醪は似て非なるものです。

  • 酒母:米麹+掛米、酵母、水、乳酸→強い酸味や苦味、アルコール10〜12度、麹歩合33%
  • 醪:酒母+米麹掛米、水→整えられた香味、アルコール16〜18度、麹歩合22%

酒母で(テスト上)最も重要な点は、工程名と以下の情報の把握になります。

工程日11123〜77〜910〜1314〜
工程名水麹仕込み汲み掛け打瀬膨れ誘導膨れ湧付き湧付休み分け枯らし
品温7〜8℃8〜14℃
ジグザグ
15℃17℃20〜22℃20〜23℃10℃
→7℃
ボーメ度16〜1715〜16-2.5〜3/1d7〜9
備考酵素溶出蒸米投入糖化促進品温低下ホットケーキ状の泡筋状の泡泡面再活性品温低下5〜7日
すしログ
すしログ

上記に加えて各工程の意味を理解すれば、合格率はかなりアップするかと!

現在主流の「速醸系酒母」では乳酸を添加して、雑菌の繁殖を防ぎます。

  • 乳酸を添加
  • 仕込み温度は18〜20℃
  • 酒母室は雑菌が繁殖しない4〜5℃
  • 前半1週間、糖化に徹する
  • 後半1週間、酵母を対数増殖させる

酒母の総米比率について

日本酒のレシピは、「総米比率」で決められます。

酒母の総米比率については、7%が基本です(吟醸酒は5%)

これを踏まえて、総米比率に関する計算は下記のとおりです。


【醪までの全体の総米が1,500kgの場合】

  • 酒母の総米=1,500×0.07=105kg
  • 麹米の量=105×0.33(酒母の麹歩合)=35kg
  • 掛米の量=105-35=70kg
  • 酒母に用いる水量=105×1.1(速醸酒母の汲水歩合110%)≒115L
  • 乳酸の量(100Lに650〜700ml)=650×115÷100≒750ml

テストでは、上記計算式を使用した計算問題が出題されます。

それでは、酒母の作業工程を見ていきましょう。

酒母1日目(水麹・仕込み・汲みかけ)

酒母1日目は、3つのパートで構成されます。

  • 水麹:汲水に米麹、清酒酵母、乳酸を混ぜる
  • 仕込み(1〜2時間後):水麹に、放冷した蒸米(掛米)を投入、予定温度に調整
  • 汲みかけ(3〜4時間後):リゾットのようになった米の中心に円筒を埋めて行う

「水麹」に乳酸も添加することで、清酒酵母よりも先に野生酵母が活動することを防ぎます。

「水麹」によって、麹の酵素の溶出が促進されます。

清酒酵母は総米100kgに対して、きょうかい酵母のアンプル1本以上が必要です。


「汲みかけ」は蒸米を潰すこと無く、糖化を促進する方法です。

これによって品温定低下が早まり、繰り返すことで白濁していた液体が次第に透明になります。

酒母2日目(打瀬)

酒母2日目は「打瀬」と呼ばれるパートです。

  • 打瀬:品温を10℃以下に下げる
    室温4〜5℃の酒母室で、仕込みの1〜2日後に7〜8℃になる

品温を下げる意味は2つあります。

  1. 雑菌の繁殖を防ぐため
  2. 酵母の増殖を抑止する(速醸酒母の前半は糖化に徹する必要がある)

酒母3~7日目(膨れ誘導・初暖気)

酒母3〜7日目は「膨れ誘導」と呼ばれるパートです。

  • 膨れ誘導:「暖気入れ」を行い、加温調整する
  • 初暖気:仕込みから2〜3日後、打瀬で7〜8℃になると行う

酵母が増殖を始めると、発生した炭酸ガス(CO2)により、酒母の表面が「膨れ」てくる。

膨れ誘導

このような状態に持っていくため、「暖気入れ」と呼ばれる加熱を行う。

昔は木製の熱湯湯たんぽで行っていたが、最近はアルミニウムやステンレスの暖気を使うこともある。

暖気の中には60〜70℃のお湯を詰めて使用する。

温めては抜いてを繰り返し、1日1℃ジグザグに上げてゆく(教本P.74グラフ参照)。

酒母6~8日目(膨れ)

酒母6〜8日目は「膨れ」と呼ばれるフェーズです。

  • 膨れ:初暖気から3〜5日目になると15℃に上昇
  • 芳香、十分な甘み、ブドウのような甘酸の調和が取れた濃厚な味になる
  • 酒母表面に泡が現れる
膨れ
写真:飯尾醸造

酒母の数値は以下のとおりです。

  • 品温:15℃
  • ボーメ度:16〜17
  • 糖分:25〜27%
  • 酸度:3.5〜4.0
  • アミノ酸度:2.5〜3.0

酒母7~9日目(湧付き)

酒母7〜9日目は「湧付き」と呼ばれるパートです。

  • 湧付き:膨れから1日後に行う
  • 膨れ時からボーメが1減少した状態
  • CO2を放出し、表面が泡で覆われる
  • 十分に湧付いたら、暖気で2〜3℃上昇させて、更に酵母を増殖させる
湧付き
写真:飯尾醸造

酒母の数値は以下のとおりです。

  • 品温:17℃
  • ボーメ度:15〜16
  • アルコール:1%前後
  • 酸度:4.5
  • アミノ酸度:3.0

酒母9~12日目(湧付き休み)

酒母9〜12日目は「湧付き休み」と呼ばれるフェーズです。

ここで酵母が最も活発に活動します。

  • 湧付き休み:最高温(20〜22℃)で3日間ねかせる(暖気入れを行わず)

酒母の数値は以下のとおりです。

  • 品温:20〜22℃ ※25℃で酵母が死滅するリスクあり
  • ボーメ度:1日に2.5〜3減少
  • アルコール:上昇
  • 酸度:上昇
  • アミノ酸度:減少

酒母10~13日目(もと分け)

酒母10〜13日目は「分け」と呼ばれるパートです。

  • 分け(もと分け):酵母を生かすため品温を下げる
  • 現在は氷入りの冷管で行い、昔は半切りに酒母を分けた
分け
写真:飯尾醸造

酒母の数値は以下のとおりです。

  • 品温:20〜23℃
  • ボーメ度:7〜9
  • アルコール:8〜10%
  • 酸度:7ほど
  • アミノ酸度:2強

酒母14日目~(酒母の枯らし)

酒母14日目以降は「酒母の枯らし」というパートです。

  • 酒母の枯らし:冷管で急速に温度を下げて、酵母をおとなしくさせる
  • 「急速に」と言っても、20〜23℃から3日後に10℃になるペース
  • その後、7℃以下で枯らしていく(5〜7日間が適切)

これで「酒母」が完成です!

次は、「醪」に入ります。

Day.4で会いましょう。


日本酒大好き、すしログ(@sushilog01)でした。

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